それぞれの思惑

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ハハ、と軽く言いながらものすごい発言を落としてきた。部長どころか、役員?! 「拓さん、やっぱり凄い人なんですね……!」 「たまたまだよ」 「そういえば、私の会社に来たのはどうして? 課長クラスで企業買収に関わるって、どうしてなんだろうって気になってたの」 「あぁ、それは……銀座で今井社長と、企業買収の話をしに席を移動したのって覚えてる?」 「はい、後からあれが自分の会社のことだと気づきました」 あの時はまさか、自分の会社が買収されるなんて思ってもいなかった。南さんから聞いた時は本当に驚いたし。 「そうそう、あの時はもう既に契約は全て完了していて、後は社員に発表して説明会を行ったりする段階で。M&A後の統合プロセスを、業界用語で“PMI”とも言うんだけど、PMIは本当に難しいんだ。  ……これまでいた社員の反発もあるだろうし、会社の制度とか、使っているシステムとか、色々と統合していく必要がある」 「そうですよね…」 「それに美月の会社は人事担当者も不在で、管理部もあんまり機能してなかっただろう?  もちろん、松本からPMIコンサルタントが入ってたけど、俺もそこに加われないかな、と思って志願したんだ」 「……それは、どうして志願したの? 実家の手伝いがしたいとか?」 まだ肝心な所が分からなくて、突っ込んで聞いてしまう。アドプランで多忙な拓さんが、わざわざ来る必要もない。 「その買収の話を聞いて、なんとなくナナが言っていた会社と似てるなと思って。で、ホームページを見てたら、美月の顔写真を発見しちゃったんだよね」 ニコニコしながらまた凄いことを言っている。それって…… 「私に会いたくて、買収に首を突っ込んだってこと!?」 「まぁ、そういうことだ」 「し、信じられない……」
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