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運命的な出会い
その人はまるで、ピアノを奏でる音楽の女神のようだった。
高校に入学して、私はもう歌手もバンド活動も諦めていた。
普通の女子高生を満喫していたある日、楽しそうに弾んだピアノの音色が聴こえて来た。
何の曲か分からないけど、聴こえてきた音はウキウキする程にピアノが大好きだ!と訴えて来る音色だった。
まるで導かれるかのようにピアノの音色に誘われて、私は音楽室のドアを開いていた。
窓から射し込む光に照らされて、口元は笑みを浮かべてグランドピアノを弾く彼女の姿は、まるで音楽に愛された女神のようだった。
私は時間を忘れ、彼女の演奏に聞き入っていた。
何曲か連続で弾いた彼女は、最後の曲を引き終わり鍵盤から手を上げたその時、私は無意識に拍手していた。
「凄い! 凄い!」
思わずそう叫んだ私に、彼女は驚いた顔をして私を見た後、照れくさそうに笑いながら
「ありがとう」
と呟いた。
これが私、深崎唯と今野紀代美こと「きよちゃん」との出会いだった。
演奏していた姿は神々しい彼女は、ピアノから離れると面白い人だった。
私はすっかり彼女の演奏のファンになってしまい、放課後は彼女のピアノのを聴くために音楽室に通うようになった。
いつしか仲良くなり、何故、きよちゃんが学校でピアノを弾いているのかを知った。
彼女はピアニストを目指していたが、親から大反対されて家のピアノに鍵を掛けられてしまったんだとか。
家でのピアノ演奏を反対され、それでもピアノを弾きたい彼女は、学校の先生に頼んで放課後の音楽室の利用を許可してもらったんだと話していた。
「唯パイセンは、何か楽器はしないなっし~か?」
きよちゃんと私は同じ年齢だが、何故か親しくなった頃から私を『パイセン』と呼び、ふなっしーが大好きな彼女は、ふなっしー語を語るようになった。
彼女の鞄にはキーホルダーはもちろん、持ち物全てにふなっしーのシールが貼られていて
「私、人間は愛せないけど、ふなっしーは愛してるの!」
と力説していた。
そんなきよちゃんに話を振られ
「私、楽譜読めないんだよね~」
えへへって笑いながら答えると
「歌は歌える?」
そう言って、iPadを鞄から取り出した。
私が疑問の視線を向けると
「何か歌える曲言って」
と言われ、突然で頭が真っ白になった。
「歌える曲? アニソンかなぁ?」
首を傾げ呟くと
「アニソン? 曲名がアニソン?」
と言われしまい
「あ! ごめん。アニソンはジャンル?じゃあ……」
私は必死に絞り出し
「残響散歌!」
そう叫んでいた。
「どれ? どんな字?」
iPadを差し出され、私は検索窓に『残響散歌 楽譜』と入力して検索をしてきよちゃんに手渡した。
きよちゃんは画面を見た後、YouTubeで音楽を聴きながらピアノで要所要所鍵盤で音を鳴らすと
「OK! 伴奏するから歌って!」
と、残響散歌の前奏を弾き始めたのだ。
ピアノ一本で歌うなんて、歌のレッスン以外に経験の無い私。
不安になりながら、歌を歌い始めた。
きよちゃんの伴奏は、1回聴いただけで合わせたのに、音源通りのクオリティだった。
「凄い! 凄いよ、きよちゃん!」
興奮して叫んだ私に
「唯パイセン、リズム感良いなっしな~。声も低音でカッコイイなっしよ!」
何故かお互いに興奮して、気付いたら1時間セッションしていた。
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