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おばあちゃんが大好き。
本当だよ?
でも今のおばあちゃんは私が分からない。
私を見て、お母さんの名前を言うの。
私がとまどって何も言えないでいると、お母さんが困ったように、
「お母さん、私が理絵子ですよ」
って話しかける。
でもおばあちゃんは顔に?マークを付けて、
「こんにちは。あなたはだあれ?」
って返事をする。
私は今のおばあちゃんにどうやって話をすればいいのか分からなくて、老人ホームから出る前に、
「また来るからね。大好きだよ」
って言うだけだった。
昔は年に二回ぐらい、おばあちゃんの住む田舎に会いに行ってた。
おばあちゃんはいつも私を見ては、
「かわいいねぇ」
って言ってしわくちゃの手で頭をなでてくれた。くすぐったいけどあったかい、そんなおばあちゃんの手が私は好きだった。
ある日、お父さんからおばあちゃんが老人ホームに入ることになったって言われた。
初めて老人ホームに行った時は、まだ私のことを「彩音ちゃん」って呼んで頭をなでてくれたから、いつものおばあちゃんだってホッとしたのを覚えてる。
でも今は私が分からないみたい。
ねえ、おばあちゃん。
私のこと、忘れちゃった?
老人ホームに行くと、おばあちゃんはよく歌を歌っている。
私の知らない、昔の歌みたい。
歌っているおばあちゃんは子どもみたいな顔で、いつも楽しそうだった。
帰り道、車の中でお父さんが言ったんだ。
「おばあちゃんは子どもに戻っているんだよ」
「だから彩音が分からないかもしれないね」
「いっぱい頑張って生きてきたから、今は楽しい思い出の中で生きてるんだよ」
たしかにおばあちゃんが歌ってるとき、今の私よりも子どもっぽい顔だった。
それでも私は私を覚えていてほしかった。
知らない人を見るような目で私を見るのが悲しかった。
会いたくないって思う時もある。
でもおばあちゃんが大好きなのは本当。
だからまた会いに行くよ。おばあちゃん。
終わり
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