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「それは彼氏が悪いって。オネーサンにばっかり負担を強いてさ」
店主にしたのと同じぐらいの話を一通り青年にすると、青年は優しい声でそう言ってくれた。酔っているからか、揺れる。
「そう......かな」
「うん。そう。大事なことの決断をオネーサンばっかりにさせるってことはさ、もうずっとお尻に敷くしかなくなるって」
(それは困る)
私はビジネススーツをきっちり着こなしてハイヒールを鳴らすようなちょっと強そうな見た目をしている。そのせいで、イニシアティブを取りたがるサバサバした人間だと思われがちだ。
でも、実際は引っ張るより引っ張られる方が好きだし、少し雑に扱われるぐらいの方が嬉しい。この際もっと晒すならばネトネトに粘着されたいし、むしろ束縛して欲しい。
(でも、そんな嗜好を気にしないぐらい彼のことが好きだったのに)
彼は大学時代の飲食店バイトが同じで、少しいいなと思っていた人。シフトが被ることは殆どなかったけど、見た目も所作も凄く好みで覚えていた。でも、バイトを辞めてからは当然会えなくなった。
共通の友達が居た関係で偶然私達は再会した。優しくて、ちょっと気弱だけど気遣いができる人。共通の話題も多く、徐々に徐々に関係を深めていって、3ヶ月前にやっと付き合えたのに。
(そういえば告白も私からだったな)
もしかしたら、好きなのは私だけなのかもしれない。
「俺だったらそんな思いさせないのに。ねぇ、そんなリード力のない男なんて捨てて、今夜俺と遊ばない?」
私はこの男の手を艶やかに掴んでーー思いっきり捻った。
「ちょっと。私の彼氏の悪口を言って良いのは世界で私一人だけなんだからあ」
「うわぁ、面倒くさいタイプのオネーサンだ」
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