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泣きたくなんかないのに涙しか出てこない。
玄関に靴のまま座り込む私に彼は優しく背中をさすってくれた。
酔っているせいか、普段は言わない言葉が口をついて出てしまう。
「引越し、一緒に着いてきてくださいの一言も言えないの。意気地なし」
「うん」
「こっちは結婚とか転職とか色々考えてぐるぐるしてるのに、同期と飲み会とか行って楽しんでるなんて」
「うん」
「今日はバーで知らない男の人に声掛けられて誘われたの。ムカつくから行けばよかった」
「......。」
「私が別れるって言ったらどうするつもりだったの。何にもしてくれないの」
「ううん」
途中から背中をさすってくれる手が止まっていた。座ったまま顔を合わせると、彼の表情がいつもとは違うように見える。
「ねぇ、まちこ。まちこは勘違いしているよ」
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