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宝は机上の時計に目を向けた。時刻は朝の4時を回ろうとしている。
広げていた参考書とノートを閉じ、座っていて凝り固まった身体を、手を上に挙げて伸ばす。そのまま右へ左へ傾け、身体を伸ばしていると欠伸が出た。深く息を吐ききる。カーテンを開けるとまだ空は暗く、夜に支配された時間が広がっている。
部屋の奥でガチャリと戸の開閉音が聞こえた。
1分程息を潜める。心臓の鼓動、時計の秒針音、普段は聞こえない音という音が鼓膜を震わせ、たった数分をとても長く感じさせる。そっと自室から出てリビングへ向かう。テーブルにはワンカップの酒の空き瓶が2本転がっている。リビングの隣の部屋に聞き耳を立てると、母親の寝息が聞こえた。一度こうなれば6時間は起きない。
「今日は早かったな。」
空き瓶を手に持ち、台所のシンクで水を入れて濯ぐ。
冷蔵庫から半額シールが貼られたスーパーの弁当を取り出し、弁当箱に詰め替える。黒い1Lの水筒に勢いよく水道水を入れる。冷凍庫から製氷皿を出し、容器を捻ってキューブ型の氷を取り出し水筒に落とす。氷同士がぶつかり合い、カランカランと涼しげな音を立てる。最後の1つは口に含み、ガリガリとかみ砕く。製氷皿に再び水を張り、明日用の氷をセットした。
洗面と身支度を済ませ、教科書や筆記用具が入ったリュックに弁当と水筒を詰め込む。エコバッグに入った消費期限切れのパンを3つ選び、自転車と家の鍵を手に持ち、小声で「行ってきます。」と言い、高校へと向かった。
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