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 だけど今、俺はそんな馬鹿だった自分に歌を歌いたい気分だ。  高校時代。情けなくも父さんに反抗できず、音楽を失っていなければ。  そのショックを引きずった末受験に大失敗し、滑り止めの滑り止めでこの大学に入らなければ。  そこまで堕ちてなお音楽に対する想いを捨てきれず、馬鹿ばかりだと見下していたはずのこのギターサークルに無様にしがみつかなければ。  一つでも歯車が狂えば、俺と音吹が出会うことはなかった。  いやむしろ、全ての歯車が狂ったからこそ俺は音吹と出会えたのかもしれない。  運命なんてものがもしあるのなら。俺の苦悩も、挫折も、絶望も。決して無駄じゃない。全てがこの道に繋がっていた。  そして俺の反抗は、二つの道が交差したこの場所から。この小さなステージから始まるんだ。  一曲目が終わる。隣を見ると、ニヤケを堪えきれていない音吹の馬面がある。楽しいか? そうか。俺も楽しいぞ。  客席の最前列には奏の姿もある。いいか奏。Show-Wayなんてクソだ。今から俺がキルストの良さをたっぷりと教え込んでやる。  目線で言葉を交わした後、音吹が「覚悟はいいか!」と観客席に呼びかける。それはキルストのライブではお決まりのフレーズだ。  だから俺も音吹とキルストのそれに倣い、腹の底から湧き上がる歓喜の歌をぶちまけた。 「お前ら全員、ぶっ壊してやるよ!」
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