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/  大学祭のライブはいつもの講堂ライブとは違い、屋外の仮設ステージを使って行われる。学外からの観客も見込まれ、普段内輪ばかりのうちのサークルにしては珍しく、小さいながらもちゃんとした様相だ。 「谷元、やっぱり連絡がつかないって」 「そうか……いよいよ人前でキルスト演奏するとなって、怖気付いちまったか。分かるけどさ」  先輩たちの慌ただしい話し声が聞こえる。谷元っていうと確か、音吹の相方だったような。  当の音吹は会場後方に陣取り、どこ吹く風といった様子でギターのチューニングを合わせている。奴の出番は次だ。  別に、俺には関係ない。心の中で吐き捨て、さっき屋台で買ったばかりの唐揚げに齧り付く。肉汁が溢れ「熱っ」と小さな悲鳴が漏れた。  結局音吹は一人でステージに上がった。キルストはギターも歌もぶっつけ本番で務まるような難易度ではないから、当然だ。 「どうも。相方が欠席なので今日は俺一人で演奏します。まぁ声の大きさには自信あるんで、二人分頑張ろうと思います」  強がりにも似た宣言をする音吹。確かに路上ライブのように一人でやっても形にはなるだろうけれど、キルストはあくまでデュオだ。音圧もハーモニーも、一人で再現できるものではない。  俺には関係ない。唐揚げをもう一口齧るが、今度は少し冷めてしまって物足りなさを覚える。俺には関係ない…… 「行ってきなよ響くん」  不意に背中を強く押された。振り返ると、意外な人物が腰に手を当てて立っている。 「奏?」  奏はまるで子を見守る母のような表情をしていた。 「好きなんでしょ?」 「……なんで」 「分かるよ。ずっと見てきたんだもん」  そう言って、恥ずかしそうに笑った。 「……ありがとう」  俺は唐揚げの残りを奏に託し、近くの奴から強引にギターを引ったくり、ステージに駆け上がる。
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