2/2
前へ
/14ページ
次へ
 突然の乱入者を訝しむ客席。音吹も他のサークルメンバーも、困惑の表情を浮かべている。  俺は気にせず、音吹の目をまっすぐに見て言う。 「俺がやるよ」 「は?」 「何を演奏する予定? ちょっと譜面寄越せ」 「おい、なんなんだ」 「キルスト三曲にオリジナル一曲か。オリジナルはまた今度にしてもらうとして、他三曲はいけるな。俺はどっちのパートをやればいい?」 「なんなんだって聞いてるだろうが!」 「言っただろ。俺がやるって。谷元の代理で、俺が歌ってやる」 「光村、キルスト舐めてんのか? 練習もせずにできるほど甘っちょろくねぇんだよ」  鋭い眼光で音吹が言う。どうでもいいけど、入学して半年以上経つのに名前を呼ばれたのは初めてだ。というか、話すこと自体がか。  音吹の奴、ちゃんと俺の名前知ってたんだな。 「練習ならしたさ。『殺し哀』も『Killing New Story』も、『Xロード』も。指と喉がぶっ壊れるぐらい」 「光村……お前まさか、隠れキルスタンか?」  俺が頷くと音吹は目を剥いた。こんな表情の音吹はレアだ。しっかりと記憶のフィルムに焼き付けておくとしよう。 「……本当だな? 信じるぞ」 「ああ。キルストに誓って嘘は吐かない」  観客の手前長々と話し合いを行うわけにはいかない。どちらがどちらのパートを担当するかだけを手身近に共有し、すぐに演奏準備に取り掛かる。  ……本音を言うと、俺は今、めちゃくちゃワクワクしている。こんな気持ちいつ以来だろう。  ギターテクを誇示するような長い長い前奏が始まった。初めての合わせだというのに俺のギターと音吹のギター、お互いがお互いを挑発し高め合うように、見事なメロディーラインを描き出す。  観客席から大きなどよめきが起こる中、俺はなぜか、高校三年生の日を思い出していた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加