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突然の乱入者を訝しむ客席。音吹も他のサークルメンバーも、困惑の表情を浮かべている。
俺は気にせず、音吹の目をまっすぐに見て言う。
「俺がやるよ」
「は?」
「何を演奏する予定? ちょっと譜面寄越せ」
「おい、なんなんだ」
「キルスト三曲にオリジナル一曲か。オリジナルはまた今度にしてもらうとして、他三曲はいけるな。俺はどっちのパートをやればいい?」
「なんなんだって聞いてるだろうが!」
「言っただろ。俺がやるって。谷元の代理で、俺が歌ってやる」
「光村、キルスト舐めてんのか? 練習もせずにできるほど甘っちょろくねぇんだよ」
鋭い眼光で音吹が言う。どうでもいいけど、入学して半年以上経つのに名前を呼ばれたのは初めてだ。というか、話すこと自体がか。
音吹の奴、ちゃんと俺の名前知ってたんだな。
「練習ならしたさ。『殺し哀』も『Killing New Story』も、『Xロード』も。指と喉がぶっ壊れるぐらい」
「光村……お前まさか、隠れキルスタンか?」
俺が頷くと音吹は目を剥いた。こんな表情の音吹はレアだ。しっかりと記憶のフィルムに焼き付けておくとしよう。
「……本当だな? 信じるぞ」
「ああ。キルストに誓って嘘は吐かない」
観客の手前長々と話し合いを行うわけにはいかない。どちらがどちらのパートを担当するかだけを手身近に共有し、すぐに演奏準備に取り掛かる。
……本音を言うと、俺は今、めちゃくちゃワクワクしている。こんな気持ちいつ以来だろう。
ギターテクを誇示するような長い長い前奏が始まった。初めての合わせだというのに俺のギターと音吹のギター、お互いがお互いを挑発し高め合うように、見事なメロディーラインを描き出す。
観客席から大きなどよめきが起こる中、俺はなぜか、高校三年生の日を思い出していた。
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