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/ 「良い加減にしろ! 響!」  弁護士である俺の両親は昔から勉強に関してうるさかった。  中学生までは俺もその期待に応えようと頑張っていたのだけれど、高一の春にKill Streetに出会ってからは、大脳を音楽にすっかり侵されてしまった。  少しぐらいテストの成績が悪くたって問題ない。どうせ音学系の学科に進むつもりだし、無理ならそのまま音楽で飯を食っていけばいい。  そうやって開き直ってはギターと歌に明け暮れていたある日、父の怒りがとうとう爆発した。まるで赤鬼のような形相でギターのネックを振り回す父の姿は、今でも鮮明に覚えている。 「やめてよ父さん! 大事なギターなんだ!」 「俺がやった小遣いで買ったんだろ! どうしようが俺の勝手だ! お前にこんなものは必要ない!」 「やめて! 頼むから! ちゃんと勉強して、父さんの望む通りに進学するから!」 「当たり前だ! お前は光村家の人間として、人様に誇れるような職業に就け! !」 「分かった! 分かったから! ごめんなさい!」 「本当に分かってるんだろうな! こんな下品な歌、もしまた歌ってみろ! その時はお前なんぞ、勘当してやるからな!」  父さんに反抗する勇気を持たなかったあの日、俺の夢は絶たれた。  そのくせいつまでも叶わなかった夢の残骸を引きずり続けた挙句、勉強に身が入らず、滑り止めのそのまた滑り止めである泉陽大学にしか受かることができなかった。  両親を落胆させた俺は半ば逃げるような形で家を出、この地で一人暮らしを始めた……。
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