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「じゃあ順番に軽い自己紹介、お願いしていいかな」
サークルに一つも入らないのもなんだし、というだけの理由で選んだギターサークル。今日はその新入生歓迎会だ。司会進行の先輩に促され、新入生の自己紹介タイムが始まる(本当にめんどくせぇ)。
「はじめまして。学部は工学部です。この学校で機械工学を学ぶのが夢だったので、入学できて本当に嬉しいです」
誰かのそんな自己紹介に俺は、この程度の大学に入ることを夢にする馬鹿がいるのかとうんざりした。もちろんそれを表に出すほど愚かではないが、進んで仲良くなるつもりもない。
「光村くん、愛知出身なんだ! 俺もだよ! すごい偶然だね!」
「あはは、そうだね」
知らない奴がやたらハイテンションで話しかけてきた時は、何がすごいものかと内心嘲笑った。確かに地元からは少し離れているものの、自分がこの大学を選んでいる時点で一人や二人同じ境遇が居ても不思議じゃないと、なぜ分からないのか。
コイツも馬鹿だ。関わらないようにしよう。
といった具合に品定めしていくと、どうもこのサークルには馬鹿しか居ないらしいことが分かってくる。
なんという憂鬱。そしてそんな馬鹿のバーゲンセールの中、特に俺をイラつかせたのは……
「経済学部、音吹純平。ギターサークルがあればどこでも良かったので、家から一番近い泉陽を選びました」
そいつと出会った瞬間の俺の気持ちは、喩えるなら、前世で蹴られた馬に今世で再会したような気分、とでも言おうか。
要するに、運命的なほど嫌な気分だった。
「将来、ミュージシャン目指してます。デュオでやりたいので相方募集中。よろしく」
……だったら音大にでも行けよ。不快になるほどの馬鹿だな。
他の奴よりさらに三馬身ぐらい先を行く馬鹿紹介にめまいを覚え、俺は誰にも聞こえないよう小さく舌打ちをした。
その後も歓迎ライブやら立食パーティーやら、退屈ではあったがいろいろな催しがあった。
はずなのに、俺の記憶のフィルムにはなぜか、音吹のあの馬面な馬鹿面だけがくっきりと焼きついて、消えなかった。
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