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「Kill Street」。通称、「キルスト」。
他の追随を許さない圧倒的技術力と独創性溢れ過ぎた世界観で、一部の音楽ファンの間で宗教的なまでに持ち上げられている男性アコースティックデュオだ。
一方「キルスタン」と呼ばれる彼らのファンはマナーが非常に悪いことで有名で、キルストの楽曲の暴力性がそのような人種を引き寄せるのだと批判する音楽ファンも多い。多いというか、ほとんどがそうだ。
つい先日にはキルストやキルスタンという呼称の元ネタとなったキリスト教の教徒から「誤解を招く呼称はやめてほしい」とクレームが入るなど、ある意味今一番ホットなミュージシャンである。
「音吹くん、キルスタンだったんだ……」
また隣の女が呟いた。最悪、と声色が言っている。
もちろん全てのキルスタンのマナーが悪いわけではないのだが、このようにキルスタンというだけで嫌われるのが今の世の中だから、自らがキルストファンであることをひた隠しにする「隠れキルスタン」も多いという。
実際、ここまで大っぴらにキルスタンであることを明かす奴を俺は初めて見た。そしてなぜか無性に腹が立った。いよいよ馬鹿すぎて、はらわたが煮えくり返っているのかもしれない。
皆の嫌悪感を煽り火に油を注ぐような、長いイントロが続いている。
俺はカバンを取り、立ち上がった。
「あれ? 光村くん帰っちゃうの?」
「ごめん。急なバイトが入ってさ」
ベタな言い訳を残し、音吹の歌が始まる前に部屋を後にする。
変に思われたかもしれない。だけどしょうがない。こんな音楽を、少しでも耳に入れるわけにはいかない。
部屋からわずかに漏れ聞こえ始めたとんでもない美声を無視し、そそくさと店の出口へと歩く。怒りのせいか、その足はいつもより幾分早いBPMを刻んでいた。
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