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去ってゆく奏の背中を見送った後、帰りの電車に乗るため立ち寄った駅で、今一番聴きたくなかった声が耳に届く。
「それでは聴いてください。Kill Streetで、『Xロード』」
駅前の小洒落た雰囲気をぶち壊す粗暴なギター。路上ライブでもキルストだなんて、どれだけ好きなんだと呆れてものも言えない。
道ゆく人々も皆苦い顔をし、急足で通り過ぎていく。少し離れたところで待ち合わせを装って聴いている隠れキルスタンっぽい人が数人居るには居るけれど、観客はたったそれだけ。
それでも奴は本当に楽しそうに、全身で、全力で音を奏でている。
「……馬鹿じゃないの」
誰にともなく吐き捨て、草臥れて帰宅する人の群れに紛れ込む。
早く家に帰ろう。だって俺は、こんな音楽を耳に入れるわけにはいかないのだから。
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