prologue 嫌い

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prologue 嫌い

「あ…っ、は、あ」  暗いはずの夜空まで明るく隅々まで照らす、東京のネオンだ。  デビューする前、まだ所属事務所の名もなきレッスン生だった頃、どさ回りのイベントで行った片田舎の星空を広海(ひろみ)や太一はきれいだと騒いでいた。だが裕貴(ゆうき)は、こちらの空の方が性に合っている、と感じる。  大きく採った窓は黒い鏡になって、裸のふたりの手足を映す。ここから見るそれはまるで影絵のようにちいさくて、まるで自分のもののようには見えない。その向こうには都心の風景。東京タワー、無数のビルやマンション、ライトアップされたゲートブリッジ。  ワンフロアがまるごと一戸の造りになった超高層マンション、最上階。広い寝室の真ん中に置かれたキングサイズのベッド。  どの部屋にも異なる種類のお香が焚きしめられているようだった。と言っても裕貴が出入りするのは玄関とリビング、それからバスルームと寝室だけだ。あと他にいくつ居室があるのか、新堂がこのマンションに楽器や機材を置いているのかいないのか、裕貴は知らないし知りたくもなかった。  セフレ、という単語には「フレンド」という意味が入っているからそれも新堂と自分には相応しくない。裕貴は意思とは無関係に浅くなる呼吸の下で考える。  そう、言うなれば一夜かぎりの関係をその都度、互いの欲望や目論見から重ねただけのこと。  たとえれば、蠱惑的で厚みのある香りを放つ、とても高価な花がたった一輪。それがゆっくりと腐っていくときのような匂いが、自分を抱いているときの新堂からは、する。裕貴はいつもそれだけで頭の芯が侵食されそうになる。 「ぁ…っ、ん…ん!」  自分の部屋も馬鹿みたいにだだっ広くて高い階にある。だが新堂の部屋の方がより、馬鹿みたいだと裕貴はそう思う。この虚飾の世界の、おそらくは天辺に近い場所。
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