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 広海は飲み物をグラスに注いで持って来る。ななめ横の、一人掛けのソファに座る。部屋のランクのわりには庶民的な家具を広海は揃えていた。そしてその空間は居心地がよかった。ここでよく悩みを聞いてもらったり、メンバーを集めてお好み焼きパーティーをしたものだ。  広海はグラスを両手で包むように持ち、うつむいた。  もしかしたら。それはほとんどぞっとする考えだった。広海への懸想がばれた?  ありえない。必死で打ち消す。メンバーにも家族にも、親しいスタッフにも話していない。この世の中で誰も知らないことのはずだ。裏アカウントのようなものはそもそも持っていないし、スマホのメモにも書いたことはない。クラシックな紙の日記帳などは、生まれてこのかたつけたことはない。誰も知らないし、片鱗はどこにも落とされていないはずだった。  にもかかわらず、今日の広海は明らかに様子がおかしい。裕貴は沈黙に耐えきれなくなる。 「ひろ…黙るなよ」  いったい、どうしたってんだ? なるべくお気楽にひびくように声を出す。広海と同い年だが誕生日が遅いから、メンバーの中でいちばん年下だった。その役割に相応しいようにつとめようとする。だが声は乾いてひびわれる。  広海は顔を上げた。ごめん、と言った。  ごめん、てなんだよ?  息を吸ったその音まで聞こえてきそうだった。 「俺…彼女ができた」 「…え?」
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