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 再び、沈黙。 「…まさか、こないだネットで書かれた子かよ?」  広海が前クールのドラマで共演した女の子と、冠バラエティーで準レギュラーになっている女の子が(さや)当てして広海を取り合っている、という与太記事。それを持ち出して裕貴は茶化そうとした。それなのに口元がひきつって笑えない。  どうしてそんなマジな顔してるんだよ。 「彼女くらい、今の俺たちならひとりだってふたりだっていくらでもできるだろ。それがどうしたんだよ」  知ってるだろ、と言って広海はとある名前を慎重に口にした。まるでそれがとても大事なものであるかのように。  知っている。地元で、小中といっしょだった同級生の女の子。広海と裕貴は保育園から高校までいっしょだったから、当然裕貴も知る名前だ。  高校を卒業して開かれた同窓会のとき、広海たちになにくれとなく世話を焼いた子。ふたりの写真を撮らないようにと仕切って、一部からうっとおしがられていたのを裕貴はおぼえていた。それから、裕貴に対して陰でこっそりと「金魚の糞」、つまり広海がいなかったら事務所に入ることもデビューもできなかっただろうとやっかみを言うやつらを咎めてもくれた。 「…ふたりもいらない。太一あたりは考えが違うのかもしれないけど…俺は、ひとりでいいんだ」  その子の顔は、正直なところはっきりとは思い浮かばない。今風の髪型やメイクをしていて、特にブスでもなけりゃかわいくもない印象。悪く言えば量産型。かわいさで言えば俺のがずっと上。  それなのに広海は、ひっそりとおだやかに笑う。裕貴の前で。
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