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「付き合い始めたばかりでこんなことを言うのはおかしいかもしれないけど…将来も考えてる」
将来?
「なにそれ。新しいドラマのあらすじ?」
裕貴が演った、そして四人のメンバー全員が一度は演じた経験がある、アイドルの通過儀礼みたいなものだった。擦られまくった設定。学園の王子様がさえない地味娘にべた惚れし、甘い言葉を吐きまくるストーリー。
「准だけは、ほら、BLドラマだったけど。柔道部のマッチョマンが細身でめがねの図書委員にひとめぼれするコメディー」
広海はだが、笑わない。笑えよ、男が「のんけ」の男に惚れて告白してうまくいくなんて、フィクションの中だけだって。
「もし俺が四十、五十になっても、結婚できなくても…そばにいるって言ってくれた」
裕貴の事務所はいわゆる老舗で、親ほどの年齢の「アイドル」もたくさん所属していた。その先輩たちは、長く独身を貫き四十歳を過ぎてやっと結婚し始める。もっと遅くになってから、ずっと同棲していた相手とやっと籍を入れるパターンもある。だがそれも一部で、独り身のままの人もかなりいた。
「でも子どもも欲しいし」
また、耳が受け入れるのを拒む単語。
「子どもって…俺たちまだ十九だぜ?」
広海を責めるような口調になる。
「待たせるのは嫌だ。それに女の子は、何歳になっても子どもが産めるわけじゃない」
裕貴の歳の離れた姉が、最近にわかに温活だ婚活だと騒ぎ始めた。だからそういうことは、多少知識がある。
けど。女性の出産適齢期。それが俺たちになんの関係があるんだよ。
「じゃ、事務所辞めるのかよ? それとも引退…」
「…先走るな」
ふいに手が伸びてきて、裕貴の頭をぽんとひと撫でした。
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