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「今すぐどうこうするつもりはない。今の立場や役割に対して責任は取る。ただ、三十までには…と思ってる。それまでにアイドル業だけじゃなく、俳優やバラエティーの仕事で実力をつけて、結婚してもファンの人たちに失望されないようにしたい」
現実的且つ冷静な判断だと思った。十年後、k_kidsはそもそも存在していないかもしれない。そのとき、バラエティー番組もこなす俳優を目指すのは悪くない活路だ。広海の演技はそれなりに評価を得ていた。裕貴は、なにも言えなくなる。
「太一や准、菅澤さんにも当分は内緒な」
話してほっとしたのか、やっといつもの花が咲いたような笑顔を見せた。広海は自分の唇の前でひとさし指を立て、それからその指で裕貴の唇に触れた。裕貴は反射的に顔をそむけてしまう。こんな話の後でも顔が熱くなるのを、知られたくなかった。
「…俺なんて、他のげーのーじんの悪口ばっか言ってるような奴なのに。なんでそんな大事な話するんだよ…」
言いながら指で唇を何度もたどってしまう。広海はこうしてときどき裕貴に触れてくる。太一や准には決してしない。まるで隙を見せる裕貴にだけ、広海の方でも隙を見せるみたいに。
それを特別な感情の表れだと思っていたつもりはなかった。なかったけれど、裕貴の胸は勝手に高鳴る。いつも。
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