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もう何度も寝たはずなのに、知っているベッドのはずなのに、ぎこちない。裕貴は隅に縮こまる。
「新堂…俺、嘘ついてた」
ヘッドボードに寄りかかって並んで座る。隠していたことがある。言わなくてもいいことかもしれない。
「こういうことするの、新堂がはじめてだったんだよ…」
あのときは、まるで経験が豊富かのようなそぶりをした。
新堂は片膝を立て、ライターのふたをぱちんという音で開けてそのまま動きを止めた。
「本当はキスも、誰かと付き合ったことすらなかった。でも、はじめてだなんて言ったら…あのとき俺がして欲しかったこと、してくれないと思ったから…」
ブランケットの端をつかみながら、顔が上げられない。
あの日は、なにもかもわからなくして欲しかった。馬鹿なことだと思う。だが、裕貴の心ではそれが本当のことだった。
「…嫌いに、なる…?」
「なんで」
「嘘つきだから」
「…嘘はお互い様だろ」
おたがいさま?
瞬きをして、となりの新堂を見た。裕貴の、伸ばしたつまさきあたりを見ている。
「知ってた」
簡単に投げ出された言葉に、どきりとする。
「すぐ気づいた。でも止められなかった。俺のものにひとときだけでもしようって、狡いことを思いながら抱いた。何度も」
また、知らなかった。知ろうともしないで、ひとりで閉じこもっていた。もしかしたら、自分はずっと長い間新堂にひどいことをしていたのかもしれないと思った。
「そのままの裕貴でいいから」
「うん…」
「殊勝にするより、口の減らない生意気な裕貴の方が好きだし」
「…変なの。従順な方がいいんじゃねえの?」
「そういう奴もいるだろうけど、俺は違うね」
裕貴が裕貴だからいい、と言う。
そのままの、俺?
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