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パパラッチ
「…………は?」
ソファに逆向きに座って座面に背をつけ、背もたれに足をかけた格好でいた。足をばたばたさせ、おまけに開けたポテトチップスの袋を傍らに置いていた。
国際電話だとは気がつかなかった。声は遠くなかったし、くぐもってもいなかった。
「ロンドンー!?」
はじめて電話がかかって来たから軽く驚いた。いきなり会いたいなどと言われたらどうしようと思い、実のところ、舞い上がってスマホの画面をフリックした。
そうしたら新堂は、ロンドンにいると言う。
マンションの部屋に、新堂の姿はなかった。だがそれはいつものことで、待っていればそのうち帰って来ると思っていた。
「戸締まりしといて」
そういう問題じゃねえだろ。
この前、撮影スタジオで偶然会って以来、まだ一度も会う時間を取れないでいた。連絡をするひまもなかった。それなのに。
「…やっぱり、移住でもすんのかよ」
大御所かよ、と裕貴は内心で毒づく。テレビ出演や数年に一度のツアーのためにたまに帰国して、「ロスを拠点にしています」とか言うやつ。
すぐにではなくても、バンドが活動休止して時間がある今のうち下見にでも行ったということだろうか。黙って、なにも言わずに。
「フラット借りてるから、来い」
新堂は裕貴を無視して、しばらくいるから、と言う。
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