パパラッチ

3/20
前へ
/173ページ
次へ
 ロンドン、ヒースロー空港。  ハワイには、仕事と家族旅行で一度ずつ行ったことがある。それにニューヨーク、韓国、オーストラリアも。だがイギリスははじめてだ。  同行マネージャーもアテンドもなしにひとりで来てしまった。広海はなにもたずねず、気をつけろと言って送り出してくれた。広海と離れるのは、正直未だ不安だ。 「涼しい…」  同じ夏でも日本の蒸し暑さとは全然違う。気温が低く、上着を羽織っている人も多い。  入国審査が厳しいと聞いていた。列が長く伸びている。そんなところでもへこみそうになる。  何月何日に来いとは言われなかった。滞在中、なにがしかの仕事をしているのかも知らない。突然訪ねていったら驚くだろうか。冗談で来いと言ったのかもしれない。もしかしたら金髪碧眼のアイジンと鉢合わせするだろうか。なにせ新堂は節操なしなのだ、知らないわけではない。  意趣返しのつもりだ。楽しみな気持ちと不安が半々。  会いたい。  送られた位置情報と翻訳アプリを頼りに、タクシーに乗った。テムズ川に自然史博物館。有名どころが見えてくるとどことなしにほっとした。  市街地を抜け、広い芝生のある大きな公園に面した小洒落たフラットの前に着く。門を入るのに手間取った。確認のため、守衛がインターフォンで部屋に連絡する。機械を通して聞こえた新堂の声に、自分でも驚くくらい心臓が跳ねた。英語をしゃべる、ぼそぼそと低い声。  やっぱり来なければよかった。どうしよう。もし、歓迎されなかったら。誰か部屋にいたら。  やけにレトロなエレベーターを降りた。通路を歩き、教えられた部屋番号の部屋の前に立つ。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加