パパラッチ

4/20
前へ
/173ページ
次へ
 チャイムを押そうとしたら鼻先で扉が開いた。 「ほんとに来た」  新堂だ。髪をかき上げた。ラフなシャツとパンツ。 「…新堂が来いって言ったんじゃん」 「言った」  つい唇を尖らせた。新堂は、いらっしゃいませ、と言って裕貴の頭を手でつかむように撫で、そのまま引き込む。 「なにも持って来てないからな」  荷物はほとんどなかった。スマホに財布、クレジットカード、上着、そのくらいだ。身ひとつ。パリ土産も地図も、なにもない。 「いーよ。裕貴がいれば」  そんなふうにこともなげに言うから、たまらなくなって抱きつきそうになる。  会いたかった。  長身、風に吹かれる無造作な長めの髪。無精ひげ。グラサン。日本ほどには目立たない。だがやはり目立つ、とも思う。いつも少し、その場所からはみ出したようなたたずまいを新堂はしている。  裕貴はキャップをかぶって行き交う人をよけながら歩く。市街から離れたマーケット。日本人もそれなりに目につく。自意識過剰だとも思いつつも視線が気になってしまう。  上京してだいぶ経つが、ある程度人気が出てからは人混みなんて歩かなくなった。だから、慣れない。ましてやすれ違う人は皆、下手をすれば女性ですら裕貴より骨太で背が高い。巨躯のアフリカ系男性のバックパックにはね飛ばされそうになる。 「っ、こわっ…」  すると新堂が振り返って、裕貴の手を取った。 「え…」  裕貴より大きくて、骨ばった手に包み込まれる。 「みっ…人に見られるだろ」 「誰に?」  そう問われれば言葉に詰まる。  新堂と外を歩くなど、ましてや買い物をするなどはじめてだった。そんなことはできないと思っていた。あきらめるという以前に、想像してみたことすらなかった。  それなのに、今こうして外国の街並みを歩いている。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加