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知ってる。
裕貴は、この体勢では決して見えないものを思い浮かべる。このあいだ楽屋で着替える新堂を見て、偶然知った。背中側、首のつけ根にちいさく彫られた翼。天使だか悪魔だか、はたまた鳥か、わからない。ただしかたわれの。
「…嫌いだ」
きりきりと歯を食いしばって答えた。新堂は目を眇めた。ずちゅ、と音が立つ。
「い…、おく、だめっ…!」
もう信じられないほど奥に侵入を許しているというのにこれ以上入って来られたら。頭の中が弾けて、体の骨組みはばらばらになってしまいそうだ。
「ふ…、」
ぬと、と舌が入り込む。ちいさく丸いつや消しのシルバーたったひと粒は、裕貴の口腔を痛みと紙一重に荒々しく撫で、触れる。
裕貴の舌先がピアスを探りあてたとき、下腹がべつの生き物のようにうねり波打った。
「は、…!」
高まりきったものが爆ぜるその一瞬。裕貴はいつもどうしても新堂の背中の皮膚に爪を立ててしまう。そこには誰かの翼のかたわれがあると知っているのに。
ふいに新堂が裕貴にいっそう強く腰を押しつける。ゴム越しにもかかわらず、熱さが身内に迸る感覚。それだけでもう一度、達ってしまう。
顔にまで自らの白濁した液体がとびちった、あられもない醜態。だが裕貴は新堂の髪をつかんでひきよせた。短いスパンで会ってもそのたびころころ変わる髪型は、今は長めの銀色がかった黒のストレートだ。
「…お前が、嫌いだ」
その言葉とともに裕貴は鈍色のピアスを吐き出した。
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