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「俺、ここの楽屋の水、きらーい。くそまずいから」
安い合皮のソファに、どがっと音を立てて裕貴は体を投げ出す。
「イタリアンレモンがいいなー。きんきんにひえたやつ」
片目だけ開いて、マネージャーの菅澤を見る。四月に新卒で配属されたばかりの彼は泡を食ってうわずった声で「はいぃ」と答え、楽屋からすっとんで出て行く。
「裕貴のほしーの、限定店舗にしかないじゃん、どーすんの菅ちゃん」
准は筋トレに余念がない。さっきまで罰ゲームの腕立て伏せをカメラの前でしていたというのに。ひゃひゃ、というような笑い声を上げ、ひどく楽しそうだ。
「知らね」
今日はk_kidsの冠バラエティー番組の、週に一度の収録日だ。裕貴は背もたれにだらしのない姿勢で寄りかかり、天井を見上げる。
「裕貴、映画の話来たんだって?」
「相手役はドブスだし友達役は冴えないし、さいあくー」
なーにが、壁ドンして「俺以外の男と口きくのも目え合わせんのも禁止な」だか。正気の沙汰じゃないと思う。
「出たあっ! 毒」
「お前のツラにかかりゃ、今をときめくアイドルも若手俳優も形無しだな」
「だって、ほんとのことだもん」
メンバーの太一は鏡の前で、私物のメイク落としを念入りにコットンにふくませる。裕貴は褒められたのかけなされたのかわからない、自分の顔面を差し出す。
「でも、やるんだろ?」
太一はコットンで裕貴の額をごく軽く撫でる。その真剣なまなざしに、つい笑ってしまう。
「もう決まってるし」
駆け出しのアイドルに決定権などないことはメンバーもよくわかっていた。それに、広海にやればいいと言われた仕事ならなんでもやると決めている。
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