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「裕貴」
准が雑誌のページを開いて掲げた。
「まーた新堂さん、お前のこと言ってんぜ」
目だけ動かすと記事の見出しが読めた。「人が創れない変な音を出したい」。
「ふうん。興味ない」
新堂燿司。ロックバンド、「worm」のフロントマン。ボーカル兼ギター。大半の曲の作詞作曲を担当。醜聞は数知れず、体に開けた穴も数知れず。
「なんかやばい相手と付き合ってて、それで俺が煙幕としてタゲられたってもっぱらの噂」
「相手って誰? 誰? どこの事務所?」
准は、自らが掲載される可能性もなきにしもあらずなのに、スポーツ新聞や週刊誌のネタが大好物なのだ。
「それに、よしんば本当に気に入ってるとしても、どうせまた顔だけだろ」
裕貴はドーランを落としたてかてかの顔で、スニーカーのままソファに足を上げて寝そべった。
外はいいのに中身は最悪。あんな顔、絶対に性格悪いに決まってる。女々しい顔。さんざん投げつけられてきた言葉。
苛立ちを潰すように目を閉じたとき、楽屋の扉が開いた。
「裕貴」
「ひろっ」
裕貴はいきおいよく起き上がる。
「腹減ってるから機嫌悪いんだろ? ほら、イタリアンレモンとホイップロール」
差し出されたビニール袋の中には、どうってことない、とあるコンビニのジュースと、生クリームをはさんだコッペパン。裕貴の今いちばん欲しかった物。
「買って来てくれたの?」
「通りかかったからな」
「だから好き。ひろ」
「出たあ、ツーカーのニコイチっ」
太一が茶々を入れる。
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