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そうだよニコイチだよ。裕貴はパンの袋を潰れないように抱きしめながら心の中で答える。
k_kidsの不動のセンター、メインボーカル。ダンスは頭ひとつ以上抜きん出、出演した恋愛もののドラマでは主演を食うほど話題をさらった。そしてこわいくらいに整った顔。広海。
ひろは俺がちんちくりんの欠食児童みたいなガキだった頃から変わらない。裕貴は思い出す。
幼い頃から裕貴は、今と同じようにかわいいと持ち上げられてきた。女の子の集団に「特別」に入れてもらったり、山ほどバレンタインチョコをもらった。
けれど、と苦々しく思い出す。それと同じくらい、チビだガリだと、おんなおとこだと蔑まれてきた。水泳の着替えのときには下着を隠され、ランドセルごと振り回されて転ばされ、ふとももの皮がべろんと剥けたりした。
そんな裕貴にとって、広海は正義のヒーローだった。比喩ではなく、本当にいじめっ子の前に立ちはだかって盾になってくれた。泣き虫だった裕貴の舌足らずの話を、根気よく聞き出してくれた。
ひろだけが俺をわかってくれる。その思いを、数えきれないほど胸に抱いてきた。
「ねえ、またひろといっしょに映画出たい」
デビュー直後にメンバー四人して主演した青春映画の評価はさんざんだった。学芸会以下、映画じゃない、最後まで見るのが苦痛だった、等々。ファンからでさえ、半ば黒歴史扱いをされている代物。
だがあの撮影の日々が、裕貴のそう長くない、さりとて短くもない芸能生活でいちばん楽しかった記憶だった。
まだ今ほどk_kidsの知名度はなく、撮影が終わればロケ地の街に繰り出して遊べた。互いに演技の経験などほとんどなかったにもかかわらず、格好をつけて台詞合わせの真似事をした。
まだ十九であるにもかわらず、あの頃は若かった、などと噛み締めてしまうほどの思い出。淡い記憶。
「はは、またいつかな」
広海は裕貴の頭をぽんとひと撫でして笑う。広海は知らないだろう、と想像する。裕貴がそんな思いでいるなんて。知らないだろうし、知られちゃいけない。
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