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眼下に、光の粒が盛大に散らばっていた。
視界のすべてを埋め尽くす、焦げるほどの輝きと躍動。湿った熱気が舞い上がり、それを音の響きがさらっていく。
わたしは、ステージに君臨する女王。この大きな世界を支配し、歌を轟かせる。
声はどこまでも吸い込まれていった。暗闇に広がる花畑のような光の群れが、興奮して揺れ動く。
この上なく気持ちよかった。大勢の上で歌って、歌って、歌う。
あちらからわたしは見えているのかな? わたしは飛び散る汗や自分の鼓動にいっぱいいっぱいで、みんなの顔を見る余裕はないや。
でもわかるよ。みんなの手にある光がわたしを照らしてくれる。わたしの歌に燃えて、弾けてくれているのがわかる。
「そうでしょう!?」
歌い終わり、満面の笑みで叫んだ。
ああ、ああ。みんなの笑顔が、興奮にはち切れる顔が、早く見たい。
マイクを投げ捨てる。
「みんなのところに、行くね!」
わたしが立つ、ひとりぼっちのステージ。
軽やかに飛び降りて、さあ、まばゆい群衆の中へ。
ビルの屋上から落ちた歌姫の声を耳にした人は少なくない。
夜景の街に残ったのは、雨夜の静寂だけだった。
END
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