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8月半ば
直撃してくれた昨日の台風は碌なものではなかった。
折角、植え付けた薔薇の苗木も傾き、あちこちの木を圧し折ってくれた。
この時期は草もよく生えるし、通常の公園の管理仕事も忙しいのに勘弁して欲しい。
「…はい、すみません。そっちの応援は厳しくて…」
休憩時間、鳴り響く同僚と後輩からのヘルプ電話の対応に追われた。
あちこちの街路樹が倒れたらしく、役所から会社に引っ切り無しに電話が掛かってきていた。
皆てんてこ舞いだった。
(今日は残業確定だなぁ…)
馬鹿でかい水筒に入ったスポーツドリンクを呷りながら、終わらぬ仕事に眉を顰める。
万年人手不足の業種故、最早諦めているが、今年はとても手が回らない。
猫の手も借りたいくらいだ。
「小父さん!」
不意に男の子の声がした。
何だと目を向ければ、生意気そうな少年が虫取り網を手に仁王立ちしていた。
「ここって蛍いる!?」
「うーん、いるはいるけど、もう時期的に厳しいかな。あっちの階段降りて、水辺があるでしょ?また来年の六月に来てご覧。夕方なら見れると思うよ?」
何故か喧嘩腰の少年に首を傾げつつ、丁寧に説明。
来年までもう見れないと知ると少年はあからさまにしょんぼりして帰って行った。
(夏休みの研究かな?)
そんな事を想いつつ、時間なので作業を再開。
暫くして、また幼い歌声とピアノの音がした。
近頃は【上を向いて歩こう】ばかり歌っていて、少しずつピアノも上手に弾けるようになってきた。
(将来は歌手かな?)
そんな事を悪戯に考えつつ、傾いた薔薇の苗木を掘り起こした。
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