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冬季
それから暫く、あの幼い歌声は聞こえなくなった。
予想は確信に変わったが、その分、胸が辛くなった。
冬になり、葉を落とした薔薇は切り戻しで骨のようになり、その姿が更に不安を煽った。
病気の妹さんとあの少年のことが気になり、仕事に支障を来さぬ程度にラジオに耳を傾け、続報を待った。
公園管理の仕事は冬場、手が空きやすい。
季節柄に加えて中途半端に暇な分、余計に気持ちが落ち込んだ。
「田辺さん、最近、元気ないっすね」
冷たい雨の日、管理の写真整理のため、パソコンとにらめっこしていると後輩が訊ねた。
隣の席の同期も同感だと頷いた。
「田辺、なんか遭ったか?」
上司もそう思ってたらしく、デスク越しに問われた。
「いや、大したことじゃ無いんスけど…」
あまりに皆が心配するので思わず手を止めて、理由を話した。
大の大人が情けないが、心の蟠りは話すに限る。
しょうもない悩みなのに、日頃の行いのお陰か皆、親身になって聞いてくれた。
「世間って狭いなぁ…、まあ、あんまり考えない方が良いな」
「もしかしたら、知らない内に退院したのかも知れないですし!良い方向に考えましょう!」
「そうそう!その少年もひょっこり来るかもしれねーし!」
そんな皆の優しさに何故か涙が溢れそうになって、思わず苦笑いで上を見上げた。
このところ市役所からの要望で公園内の細々とした整備が立て続き、精神的に疲れていたらしい。
そんな姿に同僚は苦笑いで背を擦る。
その日は皆で激励会と称して近くのスナックでカラオケ飲み会となった。
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