6月後半

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6月後半

 薬剤散布後のペグとロープの規制線を外し、ついでに萎れた花や混み合った枝を抜いていく。  見事に咲き誇る薔薇は芳しく、むさ苦しい男でもその可憐な風景は心に染みるものがある。 「ほら、じぃじ!凄いでしょ⁉」  そんな声に振り向けば、七、八十代くらいの老人の手を引いて跳ね回る、あの女の子の姿があった。  前に見た時は脚に装着していた矯正具も外れ、すっかり元気いっぱいである。 「葵!お祖父ちゃんはお年寄りなんだから優しくしろよ!」  叱る声が続いて、もしやと思えばあの少年である。  お兄ちゃんは大変だ。  また重そうに荷物を担いでいる。 「蓮くん、大変だろう?」  そう言って老人は、少年の荷物を受け取ろうと手を伸ばす。  けれど、漢を見せたい少年は大丈夫の一点張り。  見るからに無理をしてるのに一生懸命、背筋を伸ばして堂々と歩いていく。 (ん?あれって…)  作業の手を進めながら、少年の担ぐ荷物を改めて見て、その形状から正体に気付いた。  恐らくアルトサックスだ。  そして、閃いた。 「…葵ちゃん、今日はよろしくね。一緒に演奏出来るなんてお祖父ちゃん嬉しいよ」  丁度、答え合わせのように老人は女の子に話し掛け、女の子は照れくさそうに笑った。  今日は公園内にある大きな施設で市民演奏会がある。  バラ園を去年から整備していたのも、それに向けたものだった。
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