九 難題

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九 難題

 刺客と建造と梅を北町奉行所の牢に入れた後、与力の藤堂八郎は夜更けにもかかわらず、森田と建造を詰め所に通した。 「ご苦労でした。礼を申します」  藤堂八十八は森田と宗右衛門に深々と御辞儀した。 「もったいないお言葉です。面手をお上げください」  森田と宗右衛門は藤堂八郎に深々と御辞儀した。  藤堂八郎が面手を上げた 「森田さんの忠告も聞かず、刺客を放つとは呆れた輩だ。  それにしても、石田さん直伝の居合いとは畏れ入ったな」 「はい。石田さん直伝の居合い、座敷内の立ち合いに大いに役立ちました」 「森田さんは、あの二人の刺客に見覚えがありますか?」 「はい、刺客を生業にしている浪人で、お尋ね者と聞いています」 「如何にも。これまで、何人も斬殺しておる。あの浪人も、建造と梅も、磔と獄門はまちがいない。これにて一件落着だ・・・。  どう致した森田さん、浮かぬ顔をして?」 「はい、実は難題が・・・」  森田は宗右衛門の妹の喜代の間夫に勘違いされた事と、喜代から言い寄られたことを説明した。 「森田さんは、宗右衛門と妹のお喜代との間で、そのような事があったのか・・・。  森田さんの人柄といい、容貌といい、喜代が建造を嵌める囮を買って出たのもようわかる。森田さんも両手に華よのう!」  藤堂八郎はそう言って笑っている。  森田の顔が赤くなった。 「藤堂様、笑い事ではありませぬ!良い策がないものでしょうか?」 「祝言を挙げてはおらぬとは言え、森田さんにはお絹さんという御内儀が居る。  その事を話したのだから、それでも言い寄るなら、側室にすればよい」 「そうは言っても、私の一存では・・・」 「手練れの森田さんも、女御の扱いは不得手とはのう。  宗右衛門さんは、如何、思うておいでか?」  藤堂八郎は宗右衛門に、丁寧に訊いた。 「お喜代に、森田さんの御内儀さんの事を話しましたが、女房になると言い張っておりまして・・・」 「では、采配は森田さんに委ねられたと言うことだな。  初対面の森田さんの着物を縫うた、お喜代さんの心遣いを思う森田さんの気持ちはわかるが、決断せねばなりませぬぞぬ」  藤堂八郎は丁寧にそう言った。 「はい・・・。  こうしていても、結論は出ませぬゆえ、お暇致します。  夜更けにご足労いただき、ありがとうございました」  森田は宗右衛門とともに藤堂八郎に御辞儀した。 「こちらこそ、礼を申します。ありがとうございました」  藤堂八郎が御辞儀して返礼した、そして、面手を上げると、 「あまり、考え込みなさるな。森田さんの気持ちを、御内儀とお喜代さんの二人に話しておあげなさい」  と言った。
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