八 討ち入り

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八 討ち入り

 異様な気配で、森田は目覚めた。森田の指示で、有村屋は店も座敷も煌々と行灯が灯り、明るい。  店から、コトリッと物音がした。 「旦那っ」  宗右衛門が目覚めた。 「店からだ・・・」  森田は耳を澄ませた。 「へい・・・」  宗右衛門も、どこから音がしたのか、聞き耳を立てている。 「奥座敷のお喜代を此処に呼べ。奥庭から侵入されたら危険だ」 「へい・・・」  ただちに宗右衛門は、奥座敷に居るお喜代を、森田たちが居る座敷に連れてきた。  森田たちが居るこの座敷は店の奥に有り、そのさらに奥の座敷を隔てた奥に、奥座敷がある。奥座敷の外は周囲を塀で囲まれた奥庭で、出入りは裏木戸からだが、それなりに慣れた者なら、塀を跳び越えるのは容易だ。  異様な猫の鳴き声が聞えた。一匹だけではない。 「鳴き声はどこから聞えるか?」  そう言った森田は、鳴き声は奥庭の方向からだと確信した。。 「先ほど奥庭の塀の外から聞えてました。今は奥庭かと思います」  森田の問いに、喜代がそう答えた。 「店の方からは何も聞えねえですぜ・・・」  宗右衛門は準備していた棍棒を手にしている。匕首を振りまわす相手なら、棍棒の方が間合いを取れる、と森田の助言で用意した棍棒だ。喜代も棍棒を手にしている。  異様な猫の鳴き声が奥座敷から聞える。 「二人とも、私の背後に居ろっ!」  座っている森田の背後は座敷の壁、向いは障子を隔てて外廊下。右は奥座敷の隣の座敷、左は店から続く商談用の座敷だ。両座敷とも襖は閉じている。  喜代と宗右衛門が森田の背後に移動した。  その頃。  店の雨戸と障子が開いた。黒装束の賊が二人刀をかざして、煌々と行灯の明りが灯る店に忍びこんだ。二人は煌々と行灯の明りが灯っている事を不思議にも思わず、草履のまま店に上がると商談用の座敷の襖を静かに開けた。こここも行灯の明りが煌々と灯っている、二人はチッと舌打ちし、その奥の襖の引手に手を触れ、座敷内に聞き耳を立てた。  奥座敷の隣の座敷の襖が開いたらしく、異様な猫の鳴き声が大きくなった。数匹はいるだろう。 「そのまま、そこに居ろ・・・」  森田は声を潜めて宗右衛門と喜代にそう言い、静かに右膝を立てて左膝をついたまま摺り足で商談用の座敷の襖に近づいた。  とその時、商談用の座敷の襖が静かに開いた。  アッ、と声を発しそうになって、宗右衛門と喜代は思わず息を呑んだ。
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