LOVE - END

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「やり返すぞ」 「そうだな。勝利をもってやり返すしかない」 高木は敵、いろんな意味で。ヤツをぎゃふんと言わすには勝つしかない。結果を出し続けるしかない。 「正攻法でも飛び道具を使っても、そのアイデアがクライアント思考なのかどうかってところが大事だと思う。……あの人は手段を選ばないところがあるから気を抜かないようにしたい」 「知ってるよ。足元掬われる行いはしないようにするしかない」 「そろそろ行くか?」 「うん」 オリエンはさらりと終わった。SY側の希望は至ってシンプルだった。 『SYのEVを華々しく告知したい』――たったこれだけ。SYがEVを作った件は世間的な認知が低いのでそれを塗り替える。手法などは一切指定なし。 単純にテレビCMやデジタル広告を大量に打てば認知は向上するだろう。だがそれは『華々しく』とはちょっと違う。話題になること、面白いこと、ワクワクすることをやりたいと先方は考えているはず。 「SYさんって、みんなの中でどんなイメージ?」 シモジマさんが問いかける。いつも通りプランナーなどを交えた数人で初回の雑談会を行っている。 「やっぱカメラのイメージじゃないです?」 「いやいやゲーム機でしょ。ゲームステーションの最新のやつ全然手に入らないよ」 「テープレコーダーとかもSYが先駆者ですね」 「犬型ロボットとかもあった」 「イヤホンとかのSY製使ってる」 次々と声が上がる。製品に付随してその当時のエピソードなんかも出てくる。 『小学生の時に姉とゲームステーションの取り合いになった』 『カセットテープで自作の歌作って録音して音楽事務所に送って落ちた』 『じいちゃんの家に一番初期型のラジオがあって聴いてた』 「日本人はSYの製品と共に成長してきた感があるよね」 「振り返った時、良い思い出とかちょっと切ない思い出が蘇ってくるのがなんか良いですね」 これがSYの凄いところだと思う。 「華やかってなると告知イベントは必須だよねぇ」 「他の代理店もイベントの案を出してくるでしょうね。問題はどんなイベントをやるかがポイントかなぁ」 「かなりミーハーだけどやっぱり今ならドローンショーでしょ! 話題にもなるしインパクトもある!」 シモジマさんが興奮気味に言った。 「まだ擦られてない素材ですし、インパクトはありますね」 律が同意する。 ドローンショーといえば、東京オリンピック2020での地球儀のショーが日本人の記憶には新しいだろうか。あの時は1824機のドローンが使用されたらしいが、今のギネス記録は5千機以上。使用機数や見せ方も含めてこれからもどんどん技術更新されていく分野。 「オリンピックのやつは地球がくるくる回ってるだけだったけど、今はもっと奥行きがあるかつ動きのある描画ができる。人でも動物でも車でも。ドローンショーでSYの歴史を振り返りつつEVの発表するのはどうだろう?」 中国共産党創立100周年のイベントでは、歴史を振り返りながら象徴的なオブジェクトと共に文字が描かれ、みるみるうちに形を変えていく圧巻のショーが行われた。 「何千機も使ってコロコロ形態を変えるとなるとテストにかなり時間がかかるんじゃないかな。実際その中国のケースも2年くらいのプロジェクトみたいだし」 「あー。さすがに時間かかりすぎるかぁ」 歴史を振り返るショーをやるには時間もコストも莫大にかかる。テクノロジーの世界はドッグイヤー。あまり時間をかけていられない。 でもドローンは面白いし、まだまだ人を惹きつけるインパクトがある。どうにかコストをかけず実現する方法はないか。 ビリッとした感覚があり、華は言った。
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