LOVE - END

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コンペはオリエンと同様SYテクノロジー本社で行われた。一番広いであろうプレゼンルームにはSYの執行役員や各セクションの責任者の面々がずらりと並んでいる。また、オリエン時には不在だった郷田社長の存在が空気をより緊迫したものにさせており、向かい合っている翔伝チームの面々もさすがに緊張を隠せないでいる。 その中には華をチームから外すように言った柿原の姿もある。鋭い視線を投げられた気がして華は肩をすくめる。 参加は5社。発表の順番は普段の取引状況を鑑みて翔伝が一番最初になった。聞き手の集中力はいつまでも続かないので、コンペではトップバッターが一番有利だと言われている。 「SYの電気自動車を華々しく告知する、本日はその仕掛けを提案させていただきたいと思います。まずは本キャンペーンの目玉として、告知イベントのイメージをお伝えします」 シモジマさんの挨拶から始まり、マーケティングコンセプト等の前置きは一切なしでいきなりイベントの詳細発表に入る。 「照明をお願いします」 シモジマさんの声に、ふっと明かりが消える。窓のない部屋なので途端に真っ暗になり、プロジェクタースクリーンに映像が映し出された。実際のドローンショーをイメージした映像を見せるのだ。 都会の夜景の引き映像から湾岸エリアへ。どんどんクローズアップされ、観覧車、コの字型の巨大ビルなどが次々と映る。お台場の夢の大橋周辺だと分かるだろう。 ある場所で定点となる。その夜空に光を伴ったドローンが飛ぶ。星屑のようなそれらは、集合してSYのロゴを作りあげる。 あとは最初の企画の通り。2022年の答えを示すQRコードが浮かぶ。おお、と感嘆の声がいくつも上がった。 「夜空にQRコードが浮かんでいたら、きっと誰しもがスマホを取り出して読み取ってみたくなりますよね?」 シモジマさんは全員を見渡し、相手に染み込ませるように間合いを取りながら話す。 「ただ単にドローンで派手な動きを見せるのではありません。コンセプトである『SYテクノロジーの歴史の振り返りと進化』を見せるための手段として――」 イベントの概要、コンセプト、広告案を次々と発表する。決裁者である郷田社長の表情が子供のように興味津々になっている。 身内贔屓抜きにしてもコンペは順調だった。確かな手応えを感じていた。質問コーナーに入るまでは。 手を挙げたのは例の柿原。お首にも出さないが内心で『きたな』と構えていた。 「確認になりますが、今回の企画にはタレントを起用した案はないということですね」 「現時点では、タレント起用は考えておりません」 シモジマさんはさらりと答える。翔伝が企画した広告案は郷田社長を前面に出す内容になっているためタレントは不要。 「広報部の私としましては、いささか容認し難い話を聞いていたので、心配しておりましたが……安心しました」 柿原は周囲の関心を惹きつけるようにわざとらしく言う。
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