LOVE - END

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「なんというか、結果的には良かったですけど異性関係には懲りましたねぇ〜」 冗談混じりに言ったが割と本音。うまくやっているつもりだったが敵に付け入る隙を与えてしまい、薄氷を踏むような、胃を締め上げられるような感覚を数日味わって懲りた。やらかした芸能人たちもきっとこんな気分なんだろう。 「それにしても、よく私を外さずに賭けに出てくれましたね」 華はビールをガンガン飲んでいるシモジマさんに問う。律と共にコンペを降りたくないと熱意をぶつけたわけだが、それでもいまだに不思議だ。あの状況で華を外さなかったのは彼の立場からすればただの博打。 「これまで何度となくともに勝利を手にしてきた新堂さんと心中するならまぁそれはそれでありかなと」 つまり、信頼。胸がギュッとなる。 「正直、深澤君がかなり必死だったってのもあるけどねぇ」 華は一度諦めた。それでも律が必死に繋いで探偵を使って攻撃をし返したからこそ今美酒を味わえている。律がいなかったら、この案件は華の中で一生消えないしこりになっていただろう。 「彼が土下座までするとは思わなかった」 「え……」 ――土下座って。 華を連れ戻す前にそんなことまでやっていたらしい。 ――この時代にそこまでするやつがいるかよ。 「あいつ今何やってんですか?」 律は用事があるだとかでこの場にいない。コンペの前後もヒクくらい電話が鳴っていて、かなり忙しそうにしていた。 「また別のコンペチームに呼ばれてる。社内コンペにも参加してるし」 「大忙しなんですね」 「入社したばかりなのにものすごく生き急いでる感じがするね、彼。出世がしたいのかなぁ……」 シモジマさんの表情が心配そうなものになる。仕事をセーブをしながら私生活もそこそこ大事にしていたフリー時代の律と、すべてを組織に捧げている今の律。 出世? 少なくとも華の知ってる律は自身の肩書きにこだわる人間じゃなかった。料理をしたり、映画を見たり、植物を育てたり……この職業にしては緩い時間を楽しんでいた。なにがそうさせているのか? 別に私に関係ないし――そう思いながらも気になってしまう自分がいる。コンペが終わり緊張感が緩んだからだろう、余計に。 消化しない塊を腹に抱えながら華は丸の内に向かった。オフィス街だけあって歩いてる人間の種類がその辺とは違う。目的のビルは駅から地上に出てすぐ、かまぼこ型のビルの隣にある。 特になんのアポもなく突撃をかましたわけだが、運良く執務室まで入り込めた。華は応接セットに座るとぐるりと中を見渡す。黒茶で統一された内装、壁には骨太な筆字で書かれた扁額。移動は常に専用車、専用の執務室を与えられ、高い場所から市民を見下ろし、部下たちにへいこらされる。楽しいだろうなぁと思う。 ほどなくして(あるじ)が中に入って来た。
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