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「ご両親にはちゃんとお詫びしに行くから」
立ち上がって応接室を出ていこうとするが、すんなり幕が下ろせるはずもなく。
「待ってください、それではお父様が納得なさいません」
「じゃあ、無理やり結婚するの? 亜澄はそれでいいの?」
「男としてナシでないならば、華さんの気持ちを変えたいです」
「変わらないよ」
「気持ちに絶対なんてありません」
しばらくそんな押し問答が続いた。
「これはあんまり話題にしたくなかったけど」
埒が明かず、華はしかたなしに切り札を切る。
「私とユーリのこと、高木に教えたのは亜澄だよね?」
「……それは、……」
綺麗な顔面、その色がさぁっと青ざめていく。
ユーリとの件の出どころについて疑問だった。高木がいくら情報に通じてるとはいえそこまでのものなのか、と。そりゃあ相手は芸能人なのだから、気をつけていたところでいつどこでバレても仕方なかったかもしれないが。
亜澄はただひとり、華の交友関係を把握している人物で、彼には何もかも明かしていた。
ユーリとのことも当然知っていた。
亜澄は明らかに律を嫌がっていた。肇が律と会って話したことを華に明かさなかったし、近づけまい、考えさせまいとしていた。しかしSYのような大型コンペで一緒になれば共に過ごす時間も増える。華が指名され、嫌だったはずだ。気が気ではなかったはず。
なんとか先に入籍の方向に……そんな風に考えていたはず。暴露は、華をコンペから降ろし時間稼ぎをするために必要だった。
「私の性格からして、降りるって予想してた。そうでしょ?」
亜澄は俯いたままだ。
途中までは亜澄の思い描いた通りだった。華がコンペチームにいてはマイナスにしかならないと判断され、華もそれを飲んだ。だがここでも結局律が邪魔をする。律は土下座までしてシモジマさんを説得、華には逃げるなと説教。両者を繋ぎ、高木にやり返してみせた。
「私に対する重大な裏切りだよね」
ひとつ言えるのはそれ。亜澄の行為は仕事を邪魔する行為であり、裏切りだ。長年築いた信頼関係が壊れた。
残念だし悲しい。
ただ、亜澄だけが悪いとは思わない。
「私も悪かったんだ。立場を考えずに亜澄を利用してしまったから」
亜澄の気持ちが華にあるからこそ、ビジネスの関係を崩すべきではなかった。自分の判断が甘く、亜澄にこんな愚行をさせてしまった。
「でも結婚はしない」
はっきりと告げる。もう引き止められなかった。
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