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「だけどあんたは、前とキャラが少し違うよな」
なんというか……こうして触れ合っていても男と女の温度というよりかは、まだ犬がしっぽ振ってじゃれてきてる感が否めないのだ。
「俺は、すごくソフトで穏やかな人間なんだ」
――ソフト? 穏やか?
基本的な部分は穏やかだとは思うけど。これまでのギャーギャーやってたいがみ合いの数々を考えると『すごく』には首を傾げざるを得ない。
「ほんとの俺はね」
「ほんとの? なにそれ」
「華と付き合うためにドSキャラを作ってたんだよな」
「え」
「おかげでうまくいった!」
してやったりな笑顔。
本当の律は犬で、あのドSキャラや強気なキャラはぜんぶ演技だった……と。他人と付き合うためにそこまでする奴がいるかよと思いつつ。
「ふふっ。ならちょうどいいなぁ?」
華はにやりと笑い、圧をかけてベッドサイドまで追い詰めていく。ドンと胸を突いて律をベッドに押し倒したなら悠々とその身体に乗っかる。
このまま好きに食い散らかしてやろう。そう思っていたが、
「悪いが華の好きにはさせないぜ」
男の力をもって逆に押し倒されてしまい目がテンになる。――言ってることとやってることが違うんだが!?
「おい! すごくソフトな人間なんじゃないのかよ!?」
「や、なんだろ。ドSに目覚めた感?」
「なんだよそれッ」
組み伏され、身動きが取れない。
「放せよ」
「だーめ」
興奮と怨みを混ぜたような妙な笑顔に背筋がゾクっとした。
――これは、あれだ。嫉妬の炎がメラメラ燃えているやつだ。亜澄とのことを根に持ってるのがビシバシ伝わってくる。でもしょうがないじゃないか、律が振るから悪い。ちゃんと捕まえとかないと逃げるんだ。
「キスしたい?」
上から見下ろし、訊ねてくる。
「あんたはしたくないの」
「俺は死ぬほどしたい。でも今は華にどうしたいか聞いてる」
この男、言わせたい病を発病している。
そんなの、今までの華なら即却下して罵倒しているところだ。でも律との時間を待ちに待った今は……。
「したい」
気持ちを伝えるのは恥ずかしい。だけどはっきり告げた。
「あんたといっぱいしたい」
数刹那の間があり、律の顔と耳がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
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