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LOVE - COMPLEX
DHC Channel、Q' sEYE、グリコビジョン、109フォーラムビジョン――渋谷ハチ公前スクランブル交差点ビル群の壁面に設置された4面の大型ビジョンが、同時に同じCM広告を放つさまは壮観だ。瞬間的な渋谷ジャックと呼ばれる広告。
南国の透ける海。薄く淡い夕日の空。若手女優の花嫁姿。雑音だらけの中でも耳に届く優しい声。印象的なキャッチコピー……ふと足を止めて撮影する人もいる。
透明感と、どこか漂う哀愁。15秒の映画。その広告のクリエイティブコンセプトを作ったのは、SHIN/ADのクリエイティブディレクター・新堂華だ。
名家に生まれ、男並みに働き、広告賞を総舐めする才能に恵まれながらも、男をとっかえひっかえする悪魔みたいな女。ウワサによると親がセッティングした見合いの場を何度も破壊し、親戚からは暴れ馬と名付けられ距離を置かれているとか。
女王様というよりかは、俺様。
誰も好きにならず、特定の恋人も作らず、現在は割り切った関係の男が2、3人いるらしい。
気持ちがないのに付き合って、振り回してポイ捨てしないだけ昔より少しマシになったと言えるが、本質が中学時代と何も変わっちゃいない。
「まだ華、華言ってるの? 一体あれから何年経ったの? あんたほんっとに華が大好きだよね」
「ち、違うっ! 好きじゃないっ! 断じて! 好きとかじゃないっ!」
「初恋こじらせすぎィ」
「こじらせてなんかないっ!」
「もはや溺愛」
「溺愛じゃねぇっ!」
「ハナ・コンプレックス」
「コンプレックスでもねぇ!」
「はいはい。向こうはあんたのことなんか覚えてないって」
――知ってるさ、そんなことは。
数年前、久しぶりの再会を果たすも華はまったく覚えていなかった。5時間と45秒で振った男など、脳細胞の片隅にすら存在してなかった。
「別に思い出さなくていい。復讐なんだから覚えてない方が都合がいい」
「復讐? 服従の間違いじゃなくて?」
「服従じゃねぇ! なんで服従なんか!」
屈辱の記憶から早15年以上経ち、今俺はあの女と同じ土俵に立っている。自信に溢れた俺様女と対決し、打ち負かす日を、今か今かと待ちわびている。
「俺は変わったんだ。異性経験も積んだ。今じゃあいつに負けず劣らずの実績も手にしている」
「はぁ、そうですかぁ……返り討ちにあうか、ミイラ取りがミイラになる未来しか見えないわ」
「な、ら、ね、ぇ!」
何が大好きだ、何が初恋こじらせだ、何が溺愛だ、何がハナ・コンプレックスだ、何が服従だ、何が返り討ちだ、何がミイラ取りがミイラになるだ。
「まぁせいぜい頑張んなさい」
これは復讐なのだ。華にフられて傷ついて泣いていたあの頃の俺じゃない。
今度こそ。
俺が華を惚れさせて、振り回してやる――。
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