LOVE - LESS

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「このドレス、すごいね」 長いキスを終えると律の口調が砕けた。 「大胆なデザインだな。一応ロングドレスだけど背中も鎖骨も露出、ふとももにがっつりスリット。ボディラインくっきり。男どもは誰も彼もどこ見ていいか分からんかったでしょうね」 「清楚や謙虚というのが大の苦手で」 ――父親(あいつ)のせいだ。 昔は着せ替え人形みたいな服を着させられ、女たるものはこうあるべきだのなんだのと抑圧されて育った。それも父親の価値観というガチガチの狭い箱の中。 ――自分は好き勝手振る舞っていた癖に。 「この業界はインテリっぽい斜に構えた感じの人が多いから、あんまりいないタイプ」 「クマはみんなとお揃いだけどね」 「ははっ。確かに」 くしゃっと笑って、疲れが如実に現れているであろう目の下を指で優しく撫でる。化粧が取れないように触っているから、やっぱり慣れてるのだろう。 「露出狂とでも?」 「いや。一目見て抱きたいと思った」 ふ、と笑う。欲望を隠しもせずにストレートにぶつけてくる。愛だ恋だのと変に取り繕わない言葉が、華には丁度いい。 体にのしかかった律は腰回りを手のひらで撫でまわす。ドレス越しにも熱くなっているのが分かる。華は訊く。 「どんな風に抱きたいと思ったの?」 「乱してめちゃくちゃにしたい」 ぞくりとする。育ちの良さすら伺える顔が平然と悪い言葉を放ったからだ。このギャップ、悪くない。 ――だが、違うな。乱されるのも、めちゃくちゃにされるのも私じゃなくてあんただ。せいぜい今のうちに好きにしたらいい。 「せっかくのドレスを脱がすのは野暮だからこのままがいいな」 ドレスの中に手が侵入する。素肌をまさぐられてじゅっとおなかの奥が疼く。火傷、そんな単語が脳裏に浮かぶ。もちろん火傷するほど熱くはないが。 「あなた、見かけによらず正直者だね」 華はそう言って律の首に両腕を回した。胸に男の体の圧を感じながら唇を重ね合わせる。頭を固定されさっきよりもずっと激しく口内を蹂躙される。 ふと、唇に塗っていたテラコッタのリップがすっかり取れて律の唇をいくらか赤く染めていた。その時バチっと、脳内で静電気のような感覚が起こった。それはクリエイターとして閃きがあった時。トンネルから脱出できる時。 ――ま、仕事はひとまずあと。 律の熱い手のひらが太ももの内側を往復して、今にもさらに奥に触れそうだ。 ――それ以上は、ダメ。 ごく普通の女性であれば全面的に男に身を任せる場面だろうが、華は違う。主導権を握られたくない。 ごろりと横に転がり一度ソファから降りた。 ん、というような表情をしている律の胴にのしかかると、形成が逆転した。ソファの上で寝転がった状態の律の首元を両手で乱暴に引っ張る。上半身がぐんと浮いて、いよいよ彼は驚いた顔になった。 「ごめんね。男にリードされるの嫌いなんだ」 ネクタイの結び目に指を差し込み、艶やかなそれをしゅるりと解いて手を離すとどさっと律の体がソファに沈む。このネクタイはこれから行為のアイテムになる。 「……見た目通りなんだ?」 律は唇の端を少し吊り上げて笑った。
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