LOVE - END

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「お疲れ。ここにいると思った」 「おー」 華の横に立ち壁に背を預けてポケットからタバコとライタ一を取り出す。噛むように咥えると一筋の紫煙を吐き出す。なんだか最初の出会いを思い出す。 いきなり目の前が薄暗くなった。と思ったらキスが降ってきて華は目をぱちくりさせる。一緒にいた3週間でこんなシーンは何度となくあったし、一連の流れが自然すぎて違和感も覚えなかったが、よくよく考えたらよその会社の喫煙ルーム。圧倒的に場違いの常識外れ。 アホバカと、いつもの調子で罵倒しようとするが、 「しばらく会えないなぁ」 考えてもいなかったことを言われ華は固まった。――確かに? コンペが始まれば情報流出の観点で敵チームの人間とは会わないようにする。オリエンに参加していた華のチームのメンバーたちも、よそのスタッフとは口もきかず帰っていった。 「あんたさ、私に会えるのが当たり前だと思うなよ」 「えーなんでそういうこと言うの? 満たされてたくせに?」 上から目線のむかつく笑みを口の端に浮かべて、あぁいえばこう言う。華は腕を組んだまま睨みつける。 「あんたのご飯はうまいから腹は満たされてたよ」 「は? うまいのはご飯だけじゃないだろ?」 くん、と顎を持ち上げられる。 「気に入ったならこれからも変わらず会ってやってもいいぜ」 当たり前のように距離を縮める律に、またそれに対してなんの違和感も覚えない自分が気味悪くなり――律の腹にパンチを入れた。 「ゴラァッ!? 本気で殴るなっ!」 「わははーっ! どうだ? 私の拳は美味いだろぉ?」 「うっ、ううっいたい……」 「なんかいい音したなぁ? もしかして骨折れた?」 「骨折れた? じゃないわっっ!」 随分痛かったらしい。涙目になって腹を抱えている。 「なにが会ってやってもいいぜ、だバカ。この案件で私が勝ったら二度と舐めた口きけないようにしてやるからな」 「えー」 「せいぜい今のうちに新しい(オモチャ)探しておくんだな」 「オモチャなんかいらねぇ。俺は、華としかしないから」 「ハァ?」 なんだその『あ、まずった』みたいな変な顔は。明後日の方向で泳いだ目は。華と律は期間限定セフレ、その期間を終えればただの他人。操を立てる義理などない。 「あのさー」 華の言葉を遮るように電話が鳴った。律はゴメンと断って電話に応じる。 「あ、どうもマリちゃん! えっ、今から? いいよいいよ、行くねっ!」 ――なーにがマリちゃんだ。尻尾振ってさっさとどこにでも行きやがれ。華は背を向けさっさとビル外に出て、別件で待ち合わせしていた亜澄と合流する。 孤高の狼を彷彿とさせる、華の好みど真ん中の男。その顔の造形をジッと見つめてしまう。律という相手がいなくなり、今夜からは男に飢えたら自己調達しなければならないのだ。 「なにか……?」 「なんでもないよ」 相手は厳選するが、亜澄にだけは手を出してはいけないと改めて戒める。先日のように彼からアクションを起こされても断らなければならない、断腸の思いで。 「腹減った! うまいもん食べに行こっ!」 「いいですね。何がいいですか?」 「やっぱ焼肉じゃないっ!? 断腸の思いだけに!」 「え?」 無性にお腹が空いた。とびきり美味いものを食べたい。律のご飯なんかよりずっとずっと美味しい何かを。
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