LOVE - END

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コンペの基幹メンバーがミーティングルームに集まった。翔伝所属のクリエイティブディレクターのシモジマさんとコピーライターのミムラちゃんと華の3人。メンバーは今後の方向性によって追加していく。 「雪月花、今は佐倉泉起用ですよね」 「あの女優さん肌、超綺麗だよね」 ミムラちゃんとシモジマさんが雑談を始めた。議論すべきことは多々あるが、オリエンを終えた最初のミーティングは雑談ベースでゆるーく進める場合が多い。なんでもない会話の中に大きなヒントがあったり、そこから化学反応が起こったりするので、全員がアンテナを立てつつ取り留めなく話すのだ。 「俺こっち系担当するのは初めてなんだけど、肌ってやっぱりみんな特別なケアとかしてんだよね?」 「アイドルとか女優さんなんか週イチでクリニック行って肌管理してますよ」 「週イチかぁ。やっぱそんくらいしなくちゃいけないんだな」 「普通の子でも意識高い子は月イチくらいでクリニック行ってハイスペックレーザーあててるし、ゼオスキンとかもやってますよ」 「ゼオスキンってなに?」 「肌をズル向けにするスキンケアアイテムですよ」 「えっなにそれこわいんだけど」 シモジマさんが引いている。コピーライターゆえなのか、ミムラちゃんの表現はストレートかつキャッチーすぎるため華が補足する。 「温泉とかに置いてあるピーリング的なやつあるじゃないですか。ゼオスキンにはあの成分が入ってて、古い皮膚を排出して皮膚のターンオーバーを促すんですよ」 「ほーなるほど、無理矢理生まれ変わるわけね。女の子たちはもうそのレベルにいるんだ」 「男性は美容に興味なさすぎですよ! 今時男子も肌ケアしてますよ!」 脳内に様々なキーワードが浮かんでくるが、ごくありきたりでこれといってピンとくるものはない。 「けどさー、そこまでして女の子たちはなにになりたいわけ? 女優にでもなりたいの?」 「シモさん分かってないっすねー。芸能人になりたいとか男にモテたいとか、そういうことじゃないんだなァ」 女性事情に疎すぎるシモジマさんに対する不安を若干覚えながら、華は持論を展開する。 「女子は、自分が好きになれる自分でいたいんですよ。今時の子は自分軸で生きたがってる。でも自分軸で生きれる子はそんなに多くなくて、他人軸でしか生きれないとか、あえて他人軸の子も多い気がしますが」 「自分軸ね。新堂さんが言うとなんか説得力あるわ」 「ちょっとシモさん、私が言っても説得力ないんですか?」 女子がおめかしすると、男どもはすぐに男のために頑張ってるの? だとか抜かすが、華としては『誰もお前のためにやってねぇから自惚れるなボケ』と蹴り飛ばしたくなる。だが悲しいことに、世の中には他人の評価の中でしか自分を評価できない子もいる。 「でもさー、今回はやっぱあの発言をどう解釈するかだよね」 「そうなんですよね。広報の意見が決裁者と本当に一致なのかってところ」 「新しい表現をーとか言われてこっちが頑張っても、結局日和(ヒヨ)っていつも通りで落ち着く場合もたくさんあるからなぁ」 「今回は売上減で切羽詰まってるから、割とチャレンジする気がしますけどね」 『従来の表現』ならば人気女優を起用、鏡に向かって製品を使っているシーンからの肌のアップ、効果効能特徴の説明、最後は商品片手にキャッチコピーを言わす演出が定番。だが今回の要望は『今までにない広告表現』だ。
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