LOVE - END

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化粧品は、有名女優を広告塔に使わないと量販店に商品を置いてもらいにくいなど大人の事情がある。だが一旦そういうのは抜きで子供の視点で考える。 キャッチやCMストーリーを捻るか、よりインパクトのある女優を起用するか、アニメーションを使ったり、人物は使わないのもありかもしれない。あるいは、裏の裏を書いてあえて従来の表現でいくか……。 だが、本当にそれでいいのだろうか? それでクライアントの課題は解決できるのか? 思考モードに入ってしまった華とは裏腹にふたりは楽しそうに語り合っている。 「てか基礎化粧品のCMってほんっとつまんないですよね。どれも同じで首がすげ変わっただけにしか見えない。海外ブランドの化粧品のCMは映画みたいでワクワクするしすごく惹きつけられるのに。そりゃあ売り上げも落ちますわ」 「じゃあ、映画的なワクワクするやつ作っちゃう!?」 「はい! 思いついた!」 「早い。どんなの?」 「雪ちゃん月ちゃん花ちゃん、三姉妹シリーズ! ちょうど3タイプあるし」 「映画CMじゃないんかい」 「映画CMはほら、めっちゃ作りたいですよぉ。けどそれはクライアント目線じゃないですか」 「まぁ、そうだね」 クリエイターのやりたいことをクライアントに押し付けるのは違う、ということだ。華はふたりのブレストを聞きながら、もくもくと考えていた。 「キャッチフレーズは華さんがおっしゃった『自分軸で』。雪ちゃんは30オーバー、月ちゃんは25歳くらい、花ちゃんは高校生くらいで三姉妹それぞれ人生に対する悩みがあって。家庭とか仕事とか恋とか部活とか」 「肌の悩みでなく、人生の悩みね」 「だって、化粧水はどう頑張っても生活のメインにはならないじゃないですか。言うならばその人の土台を作る縁の下の力持ちで。それぞれにストーリーの中に雪月花をうまく溶け込ませるんです。で、雪ちゃんのストーリーは……」 広告業界にいるだけあって、その世代に刺さりそうなストーリーがスラスラと出てくる。素直に好きだなと思える内容だった。 「ロケ地は……」 「音楽は……」 ふたりの中で次々と肉付けされブラッシュアップされていく。あっという間に無から有が生み出される。このブワッと広がって色づいていく感じ、好きだ。 「ストーリーは置いといて、このパターンだと女優が3人いる。花ちゃんは新人さんでもいいけど雪と月は有名どころの女優さん使いたいよね」 「広告費は3倍ですよねぇ。雪と月が3、4千万クラスとして……」 「全盛期ならポンと出してくれるんだろうけど、オリエンのあの感じだと見積もりが安いところに流されそうな気もしなくもないなぁ」 「うーん……」 アイデアと課題を一致させるのは簡単ではない。またそれを選んでもらうのも。明日再度集まる約束をし、今日はお開きになった。 コンペまでの準備期間は2週間なので集中して進めなくてはならない。その分どうしても疲労が溜まっていくのだが、華にとって疲労が溜まるイコール欲求不満になるという意味である。 スマホを取り出しラインを開く。俳優のユーリとは終わったので弁護士、スポーツ選手が現在の持ち弾である。とりあえずふたりに今から会えないかラインを送ってみると、スポーツ選手からOKの返事がきた。彼は体力お化けなので激しいスポーツみたいなスカッとする行為ができる。丁度いい。 「超久しぶり! 忙しかったの?」 「まーね」 陽に焼けた肌に、筋肉質な体。体力が有り余った人特有のギラついた目。メキシカンを彷彿とさせる陽気な笑顔。相変わらずだ。何かが変わったという感じはしない。それなのに、一番最初に思ってしまったこと。――あれ? この人、こんなに嫌な匂いだった?
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