LOVE - END

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「シャワー入ってきてよ」 「オッケー。冬場なのに汗かいちゃった!」 すでにシャワーに入っていた華はガウン姿で首をひねる。彼の汗の匂いが不快だったのだろうか? 男の汗の匂いなんかいいもんじゃない。 「お待たせ、華ちゃん」 背後から抱きついて胸元を探ろうとしている。肌に引っかかった感覚が走った瞬間、華は振り返って彼を突き飛ばした。 「っっっ……??」 床に倒れた彼は突然の事態に驚いている。 「え、どどどどどどどど?」 「爪さぁ、伸びてんじゃん」 「あっ……」 指先から白い部分が顔を出している。その1ミリが、女の肌を傷つける凶器になる。 「人の内臓に触れようとしてる男のマナーはどこいった?」 「あ、や……ごめん。忘れてた」 ギロリと睨みつける。 「は? 忘れてた? それってつまり私のこと舐めてるってことだよね?」 「そんなことないよ! すすすす、すぐ切るから!」 「もういいよ。やめよやめよ! 帰って!」 完全に興が削がれてやる気を失った。彼を追い出しカバンからパソコンを取り出して仕事に取り掛かる。 些細なことだが、些細なことで相手にとっての自分がどういう位置付けなのかが分かってしまう。男の本音は言葉ではなく行動に現れる。 そういう意味でいくと……律はいつも深爪並に短く整えていた。臭くもないし生理的に無理な部分は何もなかった。――あいつは、ちゃんとしてたな。 「あー。最悪……」 仕事を始めたがいいが資料やデータがパソコンの中にもクラウドの中にも保存されていなかった。仕方がないのでホテルをチェックアウトして北青山にある事務所へと舞い戻る。 タクシーを降りる。タクシーが去っていく。 「……はぁ?」 思わず立ち止まり、冷えた空気の中に低音の声を吐き出した。なにせ律のマンションはオフィスの真ん前にある。つまり、嫌でも姿を見かけてしまう場合がある。 今、わずか数メートル向こうにいる律を目撃している。ひとりではなく、女といる。華の存在には気づかず、女の肩を抱いている。ふたりはそのままエントランスに吸い込まれていった。 ――あいつ、早速かよ? 自称モテ男。精力はタフな方。思い返せば風呂場に女もののシャンプーが置いてあった。頻繁に泊まるような女がいるという意味である。 ――なーにが『姉の』だよ! 下手な言い訳しやがって。なーにが『俺は、華としかしないから』だ。舌の根も乾かないうちに連れ込んでるじゃないか! ――嘘つきめ、ブン殴りに行ってやる! 華はマンションに向かってずんずんと突き進むが、コンペ期間中はライバルとは会わないというルールが足を止めた。 「……さむっ! さー仕事だ!」 寒さに肩をすぼめながらオフィスに入っていく。 律なんか別にどうだっていい。勝手に女とやってればいい。明日は案出しミーティングがあるのだからクライアントのことを考えなければ。
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