LOVE - END

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「資料資料……」 案はクライアントを深掘りしていくことで浮き上がってくると経験則で分かっている。雪月花の過去の広告のチェック、売上の推移、マーケティング資料の分析、現役員の略歴、顧客のアンケートなどひとつずつ確認する。 知名度も実績もある雪月花の売上は何故落ちているのか。悲しいことにコア層が流出している。ではコア層を取り戻すにはどうすればいいのか。ひたすら考えていたらもう朝だった。 翌日の案出しミーティングのメンバーは昨日と同じく3人。 ミムラちゃんは3姉妹の案が気に入っているようでその延長線上的な案をいくつか練ってきた。シモジマさんは女性向けというところがネックのようでいまいちピンときてない様子。代わりにコア層の流出問題に絞って案を出してきた。コンペだからといって、広告案以外は出せないというわけではない。クライアントの目的は『商品を売ること』なので、他に適した施策があると感じればどんどん提案する。 「人口減により売上は今後もますます落ち込むよね。それにエンタメの供給過多で、昔ほどユーザーに情報が届きにくくなってる。運良く届いても一瞬で忘れ去られる」 華とミムラちゃんはウンウンと頷く。 たとえSNSでバズっても、すぐに忘れられてしまう。バズで売上が一時的に上がればいい方で、だいたいは微増くらいで終わるのが情報過多のこの時代。 「こんな時代に力を入れなくてはいけないのは、今いるファンをもっと大切にして売上を安定させることかなって」 「そうですね。私も同じことを考えていました。短期・長期両軸で戦略を立てた方がいいと思います」 華は強く同意した。今回は『ワンシーズンの広告アイデア』を提案するだけではなく『中長期的な広告戦略そのもの』を提案するべきというのが華とシモジマさんの意見である。 ニハチの法則というものがあるが、だいたいどんな商売も売上の8割はコアなファンによって支えられている。企業はその事実を知っていながら新規顧客獲得ばかりに躍起になり、既存顧客に対してはおざなりになる。おしゃれで安価、機能面も備えた商品が続々と追いかけてくるというのに、だ。 「新規顧客アプローチはしないってこと?」 ミムラちゃんが首を傾げた。華が話す。 「新規顧客アプローチは、カンフル剤的に必要かなと。CMやそのほかのキャンペーンを短期試作と位置付けるなら、長期施策はファンとの接点改善」 「そうそう。女の子だってさぁ、年に数回猛アプローチしてくるだけの男とは付き合わないでしょ? 毎日連絡してくれるマメな男と付き合うじゃん」 「確かに!」 「ははっ。なんとうまい表現」 シモジマさんの表現に笑った。 「ファンとの接点改善って、この場合どんなことするイメージですか?」 「SNSへの注力、定期的なファンミーティングの開催、ファンスペースの立ち上げ、今のタイミングならリニューアル製品の先行試供会をやって開発苦労話を披露したりするのも効果的かと」 「なるほど、ドラマの披露ですね! ファンの集まる場でCM女優のサプライズ登場とか面白いかもですね!」 リニューアルや新商品発表などのニュースがある際、一番最初にマスコミ発表する企業が大多数だが実際に製品を使用するのはマスコミではなくファンである。よって一番最初に誰に報告するべきは、ファン。 また、ファンというものはドラマを見たがる。制作秘話や苦労話を聞きたがったりする、作り手が思っている以上に。 そういったコア層を離さない施策が、今の時代には必要なのだと思う。
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