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去っていくあのこの背中を見送る彼の背中を見ていた
もう一度だけ振り返ってと願う彼のうしろで、もう振り返らないでと祈ってる。
13歳のわたしたちにとって新幹線で4時間はあまりにも遠いから、離れても忘れないでねずっと仲良しだよねって言いながら、あのこはもう、ぜんぶ、わかっているよという顔をした。
いつだってそう。みんなより、なん手も先を読めるから、適切なしんせつやユーモアを差し出せるから、感じの良い笑顔を見せるから、だれもがあのこを好きになる。あのこはいつも正しくて、その正しさが憎かった。
あのこのいない教室で、わたしは彼の1番になる。
こんなことばかり考えてしまうわたしは正しくないから、彼のことよろしくねって耳打ちしてきたあのこをどうしたって超えてゆけない。
あのこのいない教室で、わたしは彼の1番になる。あのこのいない教室でだけ。そんなのって、耐えられない。
なにしてんのもう、今しかないじゃん。
そう言って、目の前の彼の背中を押してあげれるわたしだったら、彼はこっちを向いてくれたのかなあと閃いた、次の瞬間に押している。ほとんどやけっぱちな気分になって。
なにしてんのもう、今しかないじゃん。
彼がわたしを振り返る。こくんと頷きながらありがとうって、そんな顔、ぜんぜん見たくなかったな。
あのこが彼を振り返る。ありがとうとごめんねを、受け取った告白にていねいに重ねて差し返すあのこの涙を忘れることはないだろう。彼もわたしも。
もう一度、もう一度だけ振り返ってと願う彼のうしろで、正しくなれないわたしはもうぜったいに、振り返るなと祈ってる。
いちばん効きめのありそうな、慰めの言葉を探してる。あのこのいない教室で、わたしは彼の1番になる。あのこのいない教室でだけ。
泣きたくないから、この涙はきっと正しくないから、去っていくあのこの背中を見送る彼の背中だけを見ていた。
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