私が歌う理由

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地下鉄に乗り、XX駅を降り、階段を上がると風と街の呼吸が聴こえて来た。私はファッションビルの一つに入ると、エスカレータを使って5階まで上がった。 左に曲がり小さな雑貨屋さんを通り過ぎた頃、楽器の音色が聴こえて来た。誰かがどうやらピアノを演奏しているらしい。 別に楽器が出来るわけじゃない。 でも、その空間に入るだけで、何か自分も音楽家の一人になった気がした。 私はピアノコーナーを抜けると、奥のガラス張りのコーナーへと足を進める。 これだ!? 銀色の魔法のスティックの様な楽器、照明の光が反射してキラキラとして美しい。私は此処に来るまで、この楽器の正確な名前が分からなかった。 フルート、それは木管楽器の一種らしい。 お店にはフランス語で理想というイデアルの名を冠したそれが飾られていた。 私は鞄から礼のCDを取り出し見比べてみた。 このイデアルって、ママが持っているのと同じだ。 その夜私は、パパには内緒でこっそり部屋でママのCDに耳をあてた。音を聴いて分かった。彼女は温かく優しい人なんだと。 きっと私のママは理想を手にし、夢を掴むために家を出て行ったのだと、ヘッドホンを通し彼女から奏でられる音色を聴き分かった気がした。 例え私達を捨てても、彼女は冷徹な人だとは思えなかった。 私は涙を拭ったあと、一人決意をした。 「よしっ」
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