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私は学校を卒業する半年前にとある楽団からオファーがあり、そことの契約を済ませた。そこで私は数年の下積みをし、そして一人の有名な歌手として成長していくこととなる。
その後独立した私は、演奏のオファーがあると、色んな交響楽団と仕事を共にした。
そして、とうとうその日がやって来た。
「今回のリードを務めるルイーズさんです」
「そしてこちらは、園田黒絵さんです」
「はじめま……クロエなの……」
「うん、そうだよママ。CDのアルバム写真と違って、金色の髪が随分薄くなったね」
あの時のアルバムに映る彼女とは違い、髪の色も眩く光るエメラルドの瞳も随分と色褪せていた。それでも彼女の演奏はとても素晴らしく、二人でソプラノの音を会場一杯に奏でた。
演奏が終わる頃、止むことのない拍手の渦でコンサートホールは満たされていった。
コンサートのあとママと一緒に食事をした。その際、彼女はどうして私がこの道に進んだのかとか、また私の事を恨んではいないのかとか聞いて来た。
私は彼女の手を握りこう答えた。
「恨む? ううん恨んでなんかいないよ、だってママは理想を手にして夢を追い掛けて行ったんでしょ? 私達を置いて出ては行ったけど、私達はまだ家族のままだもん」
「家族の……まま?」
「うん、だってママはパパと離婚はしてないじゃない。パパも待ってるよママが帰ってくるの。だから今度の休み一度日本へ帰ろう。ねっ、ママ」
「うん、うん……」
私が歌う理由、それはママを迎えに行き、一つの家族へと戻るため。
━━完━━
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