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「んじゃ明良ちゃん、早速だけどちょっと待っててね」
春真と拓海は建物の出入り口に向かう。
「魔王の居所って何番だっけ?」
「4771!」
「おけ」
二人はインターフォンみたいな物に手早く番号を入力した。そしてチーンとエレベータが到着したような音を立てたのを確認してから引き戸をガラリと開け外の荒野へと駆け出した。
「…これってもしかして…冒険の始まりってやつかな?」
独り残されたライトノベルが愛読書の明良はポツリと熱の籠もった呟きを床に落とした。
待っててと言われた通りに明良はその場で待機した。
玄関の向こう側が何処に繋がってるか気になって仕方なかったが、初めてのダンジョンで1人で行動するのは死亡フラグを立てるに値すると読み漁った小説での知識があったので、外には出ず、ふたりが何時帰って来ても良い様に台所らしき場所を散策して茶菓子とお茶を用意して気を間切らわせた。
☓
「ただいまー」
「戻ったよー」
「おかえりなさい」
明良は2人が無事戻った事にホッと息を吐いた。
「待った?」
「田舎に住んでるおばーちゃんが都会で暮らす孫が里帰りすると聞いて一生懸命待っるてたのと同じぐらい長く感じながら待ちました」
「あはっ明良ちゃん面白い感想言うね」
朗らかに笑う2人に明良は胸元の制服をギュッと握り尋ねた。
「あの、もしかして私達って、異世界転生したんじゃ…」
「「して無いよ」」
意を決した質問は途中で遮られた。
春真は人差し指を立てる。
「あのね、異世界転生っつーのは一回死んじゃったり呼び出されたりするのがスタートラインでしょ?」
拓海も続く。
「うちらは一回も人生終了してないし、指名された覚えも無いのね。だから異世界転生じゃなくって単なる時空移動ってわけ」
「単なるって…時空移動自体結構凄い事なんじゃ」
「そう?ブラッシュアップのタイムリーパーとも違うから、一回死んだらそこで終了」
思ってもない結論に明良は食い下がる。
「でも魔法世界なんでしょう?お2人とも変身したじゃないですか」
「魔法使えるのはこの世界、ヴァニラの極一握りだよ」
「ヴァニラって言うんですかこの世界」
「そうだよ。」
明良の質問に答える拓海。その横で春真は本棚から1枚の紙と広辞苑並の厚さの書庫を取り出し明良の前のテーブルに置いた。羽根ペンも一緒に。
「コレ現代から来た人の入門書♪サイン頂戴☆あと規約本もプレゼント」
「はあ」
理由もわから無いまま明良はサインをしながら規約本に目を向けた。
「一通り読んどいてね」
軽い口調の春真に、こんな分厚いの読めるかな…と不安な明良だったが、肝心な答えを貰って無いのを思い出す。
「話が逸れましたが、お二人はどうやって変身魔法身につけたのですか?」
2人は明良が用意した茶菓子に手を伸ばしながら呑気に答えた。
「ああ、アレ?」
「アレは魔法じゃなくて魔王にかけられた呪いね」
「それじゃ…」
ファンタジーな世界に憧れていた明良の瞳が興奮から輝く。
「呪いを解くため、魔王とその部下達との戦いの火蓋がまさに今斬って落とされた…!みたいな!?」
春真と拓海は首を横に振った。
「その魔王、さっきトドメ刺してきたよ」
「うん。ボコボコにして呪い打ち消す魔法薬も手に入れたしね」
言って二人はズボンのポケットから出したガラス瓶に入った薬をまるで風呂上がりの牛乳のごとくあおった。
「これで一件落着ってわけ。もう獣化はしなくて済むの」
「え…?それじゃ…あの…私の冒険は?」
不安な声音の明良に、2人は声を揃えた。
「「終しまい」」
「そんなぁ」
出鼻を挫かれた明良は情けない言葉を漏らす。
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