第1話

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第1話

5月の連休も終わり、賑やかな夏の足音が聞こえてきそうな今日此の頃。 真っ青な空に入道雲が映える屋外。 硝子戸から差す陽の光に目を細めたのは、三つ編みがやけに似合う中学2年生の田辺明良(たなべ あきら)である。 (今日が初登校だから緊張しちゃうな) 彼女は足下に瞳を向けた。 「なんでこんなとこにキミ達がいるの?」 学校の廊下で出会った可愛らしい2羽の鴨の子に驚く明良は、本日から此処都立天音女子中学校(あまねじょしちゅうがっこう)に通う事になった転校生だ。 新しいブレザーを身につけた明良は困った様な笑顔を揺らす。 「学校で飼ってるのかな」 だとしたら先生に母ガモと逸れた子ガモがいると相談した方が良いのでは。 けれども。 「迷っちゃった」 学園の中は初めて訪れる者にとっては巨大な迷路だ。 生徒玄関にて出会った子ガモ達の後を追ってきたのだが…。 此処は何処だろう? 「どうしよ」 困り果てる明良を他所によちよち歩きの子ガモ2羽は先陣を切る。 「待って待って」 明良は子ガモ達を放おっておけず、慌てて追い駆けた。 人気の無い部室の標識が並ぶ廊下に1人と2羽が辿り着いた時だ。 『そろそろ良くない?』 『誰も見てないしね』 鴨が喋った。 「鴨が喋ったぁ!?」 モノローグと同じ台詞を繰り返すほど明良はテンパっていた。 子ガモはそんな明良にお構い無く会話を続けた。 『ハルマ、チョーク持ってる?』 『うん』 ハルマ、と子ガモそのいちから呼ばれた子ガモそのには、羽毛に埋まっていた子指の長さ程のチョークらしき物を身震いしながら出現させた。 『お嬢ちゃん、コレ持って』 「お嬢ちゃんって、私!?」 なんで鳥が喋ってるの? なんで上から目線? などなど 脳裏に降って湧く明良の疑問は2羽に無視された。 『『いーから』』 早く。 目を丸くしたまま、話の流れで明良は白いチョークを受け取る。 『扉に丸書いて♪大っきくネ』 「えと、わかりました」 混乱しながら明良は言われた通りに『ボランティア部』と銘打つ表札の扉にチョークで丸い線を走らせた。 書いた箇所に突然穴が空いた。 どうしてかと考える間もなく穴から風が湧き其処に吸い込まれた。 ※ 明良は目を疑った。 何故なら 自分等を取り囲む光の中で鳥2羽が、同世代の少女にメタモルフォーゼしたからだ。 「変身したぁ!?」 2羽…いや2人はインカムを首に掛けお揃いの長袖Tシャツにショ—トパンツでブーツを履いてる。 明良は驚きのあまり床にへたり込んだ。 そんな彼女を置き去りにして。 「よっしゃ!もとに戻った!」 「ヴァニラに居る間は鴨にならずに済むみたいだね。」 気合いを入れる美少女達。 「…?」 明良は光が収まった辺りを見回す。 「アレッここ何処!?」 疑問が口をついて出た理由は、其処が今まで居た校舎ではなく、レンガで構築された建物の1室だったからだ。 髪は茶系でセミロング。大きな瞳の娘と、黒髪ロングを低い位置でツインテールにした切れ長な眼が印象的な娘は明良に手を差し伸べる。 「最初に謝っておく。巻き込んじゃってゴメンね。私は2年の宮本春真で」 「うちは同じく2年の山田拓海。」 「あの、田辺明良です」 明良はしゃがんだ態勢のまま2人から差し出された手を掴み立ち上がった。 「って!自己紹介してる場合じゃなかった!このチョークみたいのなんですか!?空間移動してるんですけど!」 「ああ、アレかな?某猫型ロボットのヒミツ道具の一種かな」 春真は肩をすくめる。 「そそ。深く考えないことだよ」 拓海は頷きながら続ける。 「テレビってどうして観えるか構造の詳細説明出来ないでしょ?それとおんなじ」 明良は眉を歪めつつ首を横に傾けた。 「えーと…良く分からないって事だけはとても良く分かりました」 「もの分かりよいね」 「良きかな良きかな」 パチパチと春真と拓海は小さく拍手をした。。
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