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こうして私は、沖田さんと窓越しに、時々お話しをするようになりました。沖田さんはとても気さくな人で、楽しい話を色々してくれました。私は沖田さんと話しをする時間が、とても楽しみになったのです。
沖田さんは容姿も素敵ですが、話も面白く会話のテンポも同じで、一緒に話す事が楽しく、趣味も似ていて気も合ったのです。私は沖田さんが、どんどん好きなっていきました。それで私は、日に日に私は沖田さんを、外に出してあげたいと思うようになっていきました。
そしてとうとう私は、沖田さんに言ってしまいました。
「沖田さん。その部屋から、出てみませんか?」
「僕はここから出られませんよ」
「私は、沖田さんと一緒の外を歩きたいし。遊びに行きたいです」
沖田さんは困った表情を浮かべました。
「駄目ですよ。僕は何処にも行けません」
「私、沖田さんの家の玄関まで伺いますよ。一人で外に出るのは不安でも、誰かと一緒なら、きっと外を歩けますよ」
「明音さん。僕はこの部屋を出て、廊下に出ることさえ出来ません。たとえ明音さんが、僕の家の玄関のベルを鳴らしても、鍵を開けてドアを開くことさえ出来ません」
「誰かお家の方がいるでしょう? 玄関ぐらい開けてくれますよね? 私が沖田さんの部屋の前まで、迎えに行きますよ」
沖田さんが珍しく、荒らげた調子で言いました。
「この家には、来ないでください。偏屈な親父しかいないんです。明音さんは、あいつとは関わらないほうが良い。僕はあいつに部屋から出られなくされたんです」
沖田さんが軟禁されて、部屋から出られずにいた事を私はようやく知りました。
「何で教えてくれなかったんです?」
私は沖田さんには、部屋から逃げ出して、社会復帰をして欲しいと思いました。
「沖田さんのような素敵な方が、部屋に閉じ込められているなんて、勿体ないですよ。まだ若いんです。私、社会復帰するお手伝いしますよ」
しかし沖田さんは頑なでした。
「無理です。僕はこの場所に縛られているんです。どこにも行けないんです。廊下にいさえでられないんです」
「お父さんから逃げましょう。もう未成年じゃないんです。なんとかなりますよ。まずは、私の部屋に飛び移ってきてください」
「出来ませんよ」
「飛び移るのが怖いんですか?」
沖田さんが無言になってしまいました。
私は意を決して言いました。
「分かりました。 だったらまず私が、そちらの部屋に飛び移りますよ」
私は窓枠に手と足を掛けて、掛けた足に力を込めました。
「明音さん……。何をしようと……」
「私がそちらの部屋に飛び移れたら、男性の沖田さんなら絶対飛び移れます。私がやってみて出来たら、次は沖田さんの番です」
「危険です。止めてください!」
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